“料理上手”な母の影響で料理好きに
料理に興味を持ち始めて、ちょこちょこと作るようになったのは小学生の頃ですね。料理コンテストに応募するのが趣味だった母は当時いろいろな賞をもらっていて、新聞やテレビに出ることもあるような人でした。
そんなこともあり、私も小さな頃から母に促され、親子の料理コンテストにいろいろと出場していたんです。初めの頃は“仕方なくやっている”感じだったのですが、もともと美味しいものを食べるのは大好きだし、自分が作ったものを人に食べてもらうことってなんだかワクワクする! と、いつの間にか感じるようになっていきました。この頃の将来の夢のひとつは、“料理の先生”でしたね。
料理をきちんと作り始めたのは、短大に入学して親元から離れたときからです。ひとり暮らしを始めて自炊するようになって、感覚が分からないうちは、ものすごい量のお味噌汁やひじき煮ができあがっちゃったりして(笑)。わーどうしよう! とパニックになりつつも、楽しみながら自炊していました。母の手料理をイメージして作っても、自分で作るとどこか違っていて。
美味しく、栄養バランスもよく、安全な食材で、食費も抑えつつ作ることがどんなにすごいことだったのか思い知ったのもこの頃です。その頃からレシピ本を見るよりは、母に電話してレシピやポイントをしょっちゅう教えてもらっていましたし、それは今もずっと続いています。
就職後に料理熱が再燃
短大卒業後は、夢だった旅行業の仕事に就き7年ほど勤めました。旅行カウンターでお客様の相談を受け、国内外の旅行の予約や航空券の手配などをしていました。自分も大の旅行好きだったし、旅行先での楽しみは現地の食を味わうこと、というお客様が意外と多くて。そんなときはお客様と一緒になって楽しみながら調べたりすることもありました。
この頃から料理熱が再燃して、働きながら、料理コンテストに応募するのが楽しみになっていました。そうしていくなかで、夢だった旅行会社での仕事に就きながらも、なんだか物足りない思いが膨らんできました。どうして調理師や栄養師など食関係の道をチョイスしなかったんだろう、と悔やむ気持ちが湧いてきて…。それで思いきって退職し、調理師専門学校に通って資格を取得することにしたんです。10歳年下の子たちと一緒に学ぶ学校生活は新鮮でしたし、こんな歳になって初めて学ぶことの楽しさ、有り難さを痛感して一生懸命勉強しましたね。
卒業してからはホテル調理の和食部門で修行しました。不規則な生活リズムでしたし、怒鳴られるのは日常茶飯事。聞いてはいたけど、精神的にも肉体的にも予想を上回るハードさでした。想いを持って入った和食の世界でしたが道を転じ、保育園の給食やおやつを作る仕事に就きました。この時期に結婚し東京に来て、ガス会社の料理教室講師をしながら、レシピ開発の仕事も受けるようになったんです。
そこから郷土料理研究の道に進んだのは、短大の国際文化学科でさまざまな国の文化や民族について学んだことや、旅行会社勤務時代に国内外のいろいろな地域の文化や食に触れる機会が多かったことが影響していると思います。不思議なんですが、知らない文化に触れれば触れるほど、興味は身近な暮らしの中にある食や受け継がれてきた食へ向いていったんです。当たり前にある食文化が実は個性的であり、貴重であり、価値のあることなんだと気づいてからは、日本各地の郷土料理をもっと知りたい! と探求心に火がついたんですよね。
地方の風土を伝える郷土料理
現在はフリーランスとして、企業様のレシピ開発やスタイリング、コラム執筆、イベント講師や動画出演、食育授業など幅広くお仕事させていただいています。3年目を迎える料理教室では“一生もののお料理教室”として、何度も作りたくなる定番の家庭料理のレッスンを毎月南青山で行っています。婚活としてご参加くださる生徒さんもいらっしゃるのでプロとしての経験や技術、主婦目線の知識を良いバランスで取り入れることを大切にしています。
郷土料理研究家としては、日本各地の特産品や郷土料理を調べたり作ったり、作りやすくアレンジしたレシピを考案したりしています。図書館で調べたり、在籍している食文化学会に出席してその分野の権威の先生方からお話を伺って勉強させていただくことも。“郷土料理研究家”というと、興味を持ってくれる方も多く、新しい郷土料理のレシピ開発などうれしいお仕事をいただいたりもしますね。現地で味わったり、生産者や地元に暮らす方から直接お料理を教わったりすることで、現地の空気感や県民性や嗜好性なども伺い知ることができるので、時間を作っては現地に足を伸ばすようにしています。
おすすめの郷土料理は、私の出身県でもある秋田の『ほろほろ』というお料理。寒い時期に出回る生たらこを使うのですが、たらこと根菜を甘辛く炊いたものでご飯にとっても合うんです。もちろんお酒にも(笑)!
通学前の忙しいときでもパパッと食べられるように母がよくご飯にかけて食べさせてくれました。たらこがほろほろするからなのか、“ほろほろ”という名前もなんだかかわいいですよね。
自分のレシピが“我が家の味”になる喜び
料理を作るうえでのモットーは、料理に対して実直であること。食べてもらう人にはすべて、家族に向ける気持ちと同じように美味しくて、安心して食べられるような料理が作れるようにと心がけています。
だから、お仕事でもそうでないときでも食べている人がちゃんと美味しく感じているか、量が足りているかがとても気になります。この前も生徒さんに『田舎のおばあちゃんみたい(笑)』と言われましたが、うれしかったですね。
まさに私の目指すものはお母さんやおばあちゃんが作ってくれるような優しくてほっこりしていて、ついつい食べ過ぎてしまうようなお料理なんです。
やりがいを感じるときは、やはり自分が作った料理やレシピで『美味しい!』と言っていただけるときですね。何度も作っていくうちにその方の得意料理になって、少しずつご家族の好みが反映されていって、いつの間にか作ってくれた方の“我が家の味”になるとしたらそれってすごいことだと思いませんか⁉ 微力ながらそのお手伝いをさせてもらっていると思ったら、すごく幸せですね。
Nadiaを通して郷土料理の魅力を伝えたい
Nadia Artistになったのは、料理家仲間にお誘いいただいたのがきっかけです。自分がお料理の投稿をするなんて考えたこともなかったのですが、Nadiaを拝見してみたら美味しそうなレシピがたくさんあってすごく興味が湧きました! 自分のお料理をたくさんの方に見てもらえる経験はなかなかありませんし、Nadiaに登録させていただいたのがきっかけにとても世界が広がったように思います。
レシピを紹介するときに気を付けているのは書き方です。工程が短いと一見して簡単そうには見えるのですが、作る方が迷わないように分かりやすく、再現性が高くなるようにポイントを盛り込んで書くようにしています。料理写真に関しては、美味しそうに見える角度やライティング、スタイリングになるようできるだけ気を使うようにしています。写真のクオリティが高いとやっぱり目に留まりやすいし、写真が美味しそうなのは何よりも説得力がありますよね!
今後は、いろいろなお漬物を作りやすくレシピ化してみたいです。主人もお漬物が好きで、毎日のように自家製のお漬物を食べています。お漬物って塩分が高いと敬遠されがちですが、何よりも簡単に食べられる野菜料理だと思っています。秋田でも私の生まれ育ったエリアはお漬物が有名で種類も豊富なところなので、じっくり研究して現代に合わせた、若い方やお子さんでも美味しく食べられるレシピとして発信できたらいいですね。
私のジャンルである郷土料理は作りづらかったり、見た目が地味だったりと、簡単なお料理や華やかな料理と比べると埋もれがちです。そういうネガティブな部分をなくし、郷土料理の魅力はそのままに、作ってみたいと思ってもらえるような手軽さや美味しさや奥深さを、Nadiaを通して伝えていければと思っています。
お気に入りのキッチングッズを教えてください!
◎かわしま屋 麹蓋 (もろぶた)
私の一番好きな郷土寿司が佐賀の須古寿司というものなんですが、そのお寿司に欠かせないのが、こちらの『麹蓋(もろぶた)』です。麹を作ったり、お餅を入れたり、昔はどこのおうちにもあったそうですが、現地であちこち探しても安心して食品を入れられるようなものはなかなか見つからなくて。そんなときに出会ったのが、かわしま屋さんの麹蓋(もろぶた)でした。国産の天然杉を使っていて、盛り付けるとふわっと広がる優しい木の香りに癒されます。何より楚楚として素朴な麹蓋(もろぶた)の趣が気に入っています。
写真:高橋 しのの 文:室井瞳子
がまざわ たかこ's profile
料理家・郷土料理研究家・調理師。作り続けたい定番の家庭料理や、地味だけどおいしい!な『心がほっこりするごはん』をモットーに体も喜ぶ素朴なごはんを目指し活動中。
がまざわ たかこさんのプロフィールはこちら
Nadia Artistになりたい方へ。申請ページはこちら