料理研究家になる前は、どんなことをなさっていたんですか?
美大で染織を専攻していて、卒業後はテキスタイルメーカーに入社。すっごくちっちゃな会社だったので、仕事はデザインだけにとどまらず、企画やブランドのプロデュース、製品管理、営業、小売りまで、まさになんでも屋さん(笑)! めちゃくちゃ忙しかったけど、ありとあらゆる仕事に触れることができて、ビジネスの言葉でいう川上(メーカー)から川下(小売)まで、すべて見れた感じ。ものすごくいい経験になって、私って接客が好きなんだ~って気づいたのもこのときです。
3年ぐらい無我夢中で仕事をしていたんですけど、ふと、このままでいいのかと。営業でまわる取引先の相手は、私よりず~っと年上のおじさんばかり。政治とか経済とか、社会一般の話題に全然ついていけないんですよ。ホント、言葉が通じないレベル! こんなに自分の中身が足りないまま、忙しさに追われて20代を終わったらヤバい!! と。思いたったら止められない性格で(笑)、次にどうするかなんて何も考えないで3年半で退職。
そのとき決めていたのは、自分の知らない分野の本を、年間100冊読むことだけ。となると、仕事は時間が自由になるアルバイトしかなくて、学生時代から大好きだった輸入食料品店へ直行。同時に極貧生活がスタートするわけで…、家賃4万円のアパートに引っ越し、本を読まなきゃいけないから思いきって調理道具もテレビも手放しちゃいました。
料理研究家になるきっかけは?
物心ついたころから母の料理のお手伝いはしていたんですけど、母の作るものは、父の好みもあって純和食ばかり。全部茶色です(笑)。私はどうしても大好きなグラタンが食べたくて、母にしょっちゅうせがんでたんですよ。でも、グラタンってけっこう手間がかかるんですよね。ある日、母がグラタンの作り方が載っている子ども向けの料理本を買ってきて、私に「はい」って…。そうか! 食べたいものは自分で作ればいいのか(爆)! 小学3年生で目覚めさせてくれた母ってスゴイですよね~♪ 5~6年生のころには、2歳下の妹とケーキをワンホール焼いて食べたり、自分好みの朝食を別に作ったり、なにしろ美味しいモノを食べたい欲求が強いせいで、ひととおりの料理を作れるようになってました。
輸入食材店でバイトを始めてからは、お店で扱っている珍しい食材の味や使い方をお客さまに広めるために、世界各国のいろいろな料理を試作。周りからも私のレシピは美味しくて面白いねって好評だったんです。それで、作った料理の記録も兼ねて、もっとたくさんの人に知ってもらいたいなと、ブームになり始めていた料理ブログをスタートすることに。会社を辞めて3年、読んだ本は予定通り300冊に到達した時期でした。
当時、小さなコンパクトカメラで撮った写真はひどい画像で(笑)。でも、想像以上にアクセス数が増えていって、4~5か月目で1日7000アクセス、半年以降はブログランキング1位を継続して、雑誌やテレビでも紹介されることに。でも、相変わらずテレビがないから話題になってるなんて実感はないまま、1年続けたところで書籍化のオファーをいただいたんです。あれよあれよという間に、その年だけで4冊もレシピ本を出版することになったんですけど、奇跡みたいなことが起こった~! すっごい記念になるな~って感覚だけで、先に料理研究家になる道が続いているなんて全く思っていませんでした。
料理へのこだわり、レシピを作るうえでのモットーは?
ブログを始めるにあたって、やるからにはより多くの人に見てもらって、できるだけ長く続けたいと、テキスタイルメーカーにいた頃に学んだデザインや全体の骨格を考えること、3年の読書で培った様々な知識を総動員。ほかにはない目を引くタイトル、伝えたいことが瞬時にわかる構成、自分自身が飽きずに続けられるコンセプトなどを1か月かけて考え、準備しました。じつは私、長いレシピを読むのが大の苦手。読者にとっては見たことも食べたこともないような海外の料理だって、レシピが長くて面倒なのは私らしくないなと。だから、これ以上簡単にできないってところまで試作を重ね、レシピを3ステップに落とし込んでからブログに公開する縛りを作ったんです。
"料理に決まりはなくて、ワクワクすればなんでもOK!"
それと、日本には包丁使いや盛りつけなど料理の細かいルールがあるけれど、それが世界の常識じゃないんですよね。まな板なんて使わず、手の上で空中切りなんて国も珍しくないし、料理って自由な発想でいいと思うんです。みんなで「美味しい!」と「楽しい!」を共有するのが一番♪ だから、レシピが簡単なだけじゃなく、料理の背景や国の文化といった情報も盛り込んで、2006年にスタートしたのが『大変!!この料理簡単すぎかも...☆★ 3STEP COOKING ★☆』。
ブログは今年で丸10年目を迎えますけど、この考え方は今も全然変わっていなくて、私の料理へのこだわりでもあり、新鮮な感動が続いている最大の要素でもあるんです。
料理研究家になって、一番印象に残っている仕事は?
2007年にはじめての単行本を出版することになったとき、自分にできるのかどうかより、やりたい! って気持ちで受けちゃって、料理本を作るってどういうことなのか、何をするのか、な~~んにも知らないワケですよ。バイトは週4~5日の勤務の契約なので、残り2~3日のなかから単行本のためのスケジュールをやりくりすればいいやって思ってたんですけど、これが大間違い! 打ち合わせ、メニュー案決め、試作、買い出し、実際の料理制作&撮影、後片づけにレシピ作成、ゲラのチェックなどなど、1冊の本を作るってものすごい量の作業があるんですよね。
はじめてだから余計に時間がかかるし、ブログもアップしなきゃいけないし、今考えるともう絶対ありえない状況…。さらにお金に関しても無知で、バイト代が月に12~3万しかないのに、試作の材料費などでどんどん出ていって、しかもギャラが入るのは本が出た1~2か月後…(泣)。なけなしの貯金を使い果たし、お金も時間もない数か月間、どうやって生活していたのか記憶がないくらい(笑)。
でも、当時の担当編集者が手取り足取り、本づくりを一から教えてくれて、あの経験があったから、今まで続けてこられたんだなって。このときはまだ料理研究家じゃないけど、今までで一番印象に残っている仕事だし、そのときのゲラとかラフとかを今も取っておいているくらい宝物です。
挫折したり、悩んだ経験は?
最初の本が出てから、ほかの単行本に雑誌、WEBなど、次々と仕事の依頼がくるようになったものの、大好きな輸入食材店を辞める気はさらさらなくて。料理の仕事がどんどん増えても、自分のなかでは趣味がひとり歩きしている感覚。もちろん、いただいた仕事は必死で取り組んでいたんですけど、料理研究家という肩書きを名乗るのに、抵抗があったんです。
気持ちに変化があらわれたのは2010年から3年続いたテレビ番組の週1回のレギュラー出演が終わったのがきっかけでした。それまで、年に1度は勉強を兼ねて行っていた海外旅行以外、1日も休みがないくらいの状態で2足のわらじを履き続けました。常に全力ダッシュしながら勉強しながら仕事している感じ。今ある仕事をこなすことに全力を注ぐばかりで、その先にあるはずの進むべき道について何も考えていなかったことに気づいてガクゼン。どのお仕事も楽しくてやりがいは感じていたものの、この先料理の仕事をどうするか悩んでました。輸入食材店の仕事が面白くて同僚たちといるのも楽しくて、こっちに落ち着きたいな~なんて気持ちも芽生えてて。走り疲れちゃったんですね(笑)。
そのタイミングにお仕事で、活躍されている同年代の料理研究家さん達に出会って、1日中話をする機会があったんです。そこで私にはまだまだ料理について知りたいことがいっぱいあるし、伝えきれてないじゃないかと思いました。立ち止まってる場合ではない! って。プロとして料理の仕事を続けたい、料理研究家の肩書きでやっていこうと迷いが吹っ切れた瞬間です。
これからの目標は?
結局、2足のわらじは7年履き続け、2014年ついに退社。すべての力を料理の仕事に注げるようになって、やっといろいろなことを考える余裕ができ、知識欲にもまたまた火がついているんですよ。今、新たに取り組んでいるのが、料理教室と災害食の開発。
料理教室はずっとやりたくて、やっと夢が実現。何種類ものオリーブオイルを食べ比べてみたり、鶏肉に塩をふってどのくらいおくといちばん美味しいか、なんて実験も盛りだくさん。先生と生徒じゃなくて、料理でワクワクすることを共有する場にして遊んでます(笑)。
一方、災害食は、意識改革っていうと大げさだけど「美味しい」の偉大さを伝えたくて。災害食って、いまではかなり進化して美味しいものもありますが、カロリー重視でお腹を満たすことを重視したものが基本。それも大切なんですが、同じ食べるなら気持ちが上がるものが良いじゃないですか! 有事で落ち込んでいるときこそ、 美味しいものが前向きな気力につながると思うんです。ストックしておきたくなる魅力があって、賞味期限が近づいたら「なにもなくて良かったね~」ってお祝いディナーに使える保存食&レシピを絶対作ります!
人間の体って、ホント、食べたもので作られてるんですよね。お腹を満たすだけじゃなくて、体を作って気持ちを上げて、みんながハッピーになる料理を伝え続けたいと思います。美味しいモノの威力って、絶大だから♪
お気に入りのキッチングッズを教えてください!
三大お気に入り道具が、トング、おろし金、計量スプーン。トングって全部同じかと思ってたんですけど、コレを使ったらあまりのつかみやすさに感動。細長いおろし金は、大根やタマネギ、チーズまで万能で、めちゃくちゃ早くおろせるんです♪ 細長いフォルムがカワイイ計量スプーンは、やや深めで計量しやすく、ブレが少ない! 柄の部分が弧を描いていて、テーブルに置いたときにきちっと自立するのもエライ!
どれも別々の時期、別々の場所で買ったのに、アメリカのブランド、クイジプロ CUISIPROだったことが判明。大好きです!
写真:巣山サトル 文:沖田恵美
ヤミー's profile
世界中のお料理を3ステップの簡単レシピにしてお届けする、料理研究家。美術大学を卒業後、テキスタイルデザインの仕事を経て、輸入食材店に勤務。2006年1月に料理ブログをスタートし、レシピの簡単さと面白さからたちまちネットやテレビで話題に。2007年6月にはブログをまとめたレシピ本『大変!!この料理簡単すぎかも…ヤミーさんの3STEP COOKING』(主婦の友社)として出版され、ベストセラーとなる。他『「食べたい」ときに、食べたいぶんだけ! ヤミーさんの3STEPで作れる1人分お菓子』(主婦と生活社)『輸入食材で作る簡単!おいしい!ごちそうレシピ』など著書多数。
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