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    • 公開日2024/03/19
    • 更新日2024/03/19

    料理が好きではない人に、誰よりも寄り添っていきたい|#49 奥田和美(たっきーママ)

    Nadia Artistにスポットを当て、ここでしか聞けない裏話や料理研究家さんの想いをお送りする「Artist History」。今回は、誰でも簡単に作れる美味しいレシピが人気の奥田和美(たっきーママ)さんをご紹介。レシピ本を20冊以上も出版し活躍中のたっきーママさんですが、もともとは料理が好きではなかったというから驚き! そんなたっきーママさんがなぜ料理の道へ進んだのか、これまでの道のりや仕事のモットーなどを教えていただきました。

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    料理が好きではない人に、誰よりも寄り添っていきたい|#49 奥田和美(たっきーママ)

     

    料理は苦手で、献立を考えるのも大嫌いだった

    たっきーママ(奥田和美)さん

    初めてひとりで料理をしたのは高校生のとき。もう40年も前のことで、当然インターネットもなく、何も分からない状態で。パスタを作ったけど、麺は鍋のふちで焦げるし、味がないし、何を足しても美味しくないという大失敗に終わりました。

    社会人になってからは必要に迫られて自分のお弁当を作るようになりましたが、作らなくていい状況なら作りたくなかったし、料理への苦手意識が強かったですね。何なら今でも…料理のお仕事は大好きですが、生活としての毎日の料理はやっぱり面倒だし、家族がいなかったら毎日カレーでもいいくらい(笑)。

    結婚してからは仕事は忙しいし、献立を考えるのも大嫌いだし、日々の料理はミールキットを利用していました。届いた食材を使って淡々と作っていくだけ。ところが、長男の離乳食が始まったとたん、「偏食」という大きな壁にぶち当たって。好き嫌いがあるというレベルではなく、本当にほとんど何も食べてくれなかったんです!

    肉、魚、野菜どころか、ご飯も口に入れてくれず、食べてくれるものはうどんと、ミルクに浸したパンのみ。この子の命をあずかっている、という責任から「何とかしなければ!」と、初めて真剣に食に向き合った時期だったと思います。

     

    残った離乳食を食べながら泣いていた時期も

    たっきーママ(奥田和美)さん

    そのころは、夫も単身赴任中で相談もできず、食べてもらえないと分かっていても離乳食を毎日作って…。残された離乳食を自分で食べながら、いつも泣いていましたよ。うどんの麺やパンを手作りして、野菜を練り込んだりして試行錯誤。30回に1回ぐらいは食べてくれるし、そのときの喜びが大きくて毎日工夫していました。

    そんな中で気づいたら、子どももいろいろと食べられるようになり、ようやく自分が作ったものを食べてくれる幸せを知った気がします。今思うと外食に連れて行ったのも、食べてくれるきっかけになったかもしれません。いつもと違う環境だと食べてみようと思うのか、息子がお米を初めてちゃんと食べてくれたのは焼肉屋さんのクッパ。野菜は某ファストフード店のサラダでした(笑)。

     

    料理ブログのきっかけは子どもの病気

    たっきーママ(奥田和美)さん

    料理ブログは長く続けていますが、最初は料理に特化したブログではありませんでした。夫の転勤で大阪から引っ越すとき、友だちにブログの開設をすすめられて。当初は離れた友だちに子どもの近況を伝えるためだけに、子育てブログを始めました。

    その後、大阪に戻って来て、必要なくなったブログを放置していたころ、次男が原因不明の病気にかかったんです。アレルギーの確認のため、病院で「昨日と今日、食べたものをすべて教えてください」と言われたとき、まったく思い出せなかった自分にショックを受けたんですよね。結局、病気はアレルギーとは関係なかったのですが、これではいけないと思い、毎日食べた献立をブログに記録することにしました。

    それを続けていくうちに、子どもの食事の悩みに共感を持ってくださった方や、レシピを教えてほしいという方からのコメントが増え、料理中心のブログになっていったんです。

     

    ミーハー心&ビール目当てで料理家の道に!?

    たっきーママ(奥田和美)さん

    そこから料理家の道に進んだのは、実は成り行きまかせです(笑)。すごく食に悩んでいるときに、料理研究家の井上かなえさん(かな姐さん)の料理本に出会って。何気なく本を手にとったら、ものすごく工程が短いし、しかも作ってみたら美味しくて、「こんなに簡単で美味しくできるの?」と目からウロコでした。

    それで井上さんのブログをチェックしたら、大阪のイベントに来ることを知り、もう会いたくなっちゃって。ある料理サイトへレシピを投稿しないと参加できなかったので、かな姐さん会いたさに、レシピを形にして投稿するようになりました。

    さらにその後、景品のビールに惹かれて、サントリーさんのレシピコンテストに応募したら、グランプリをいただいて。店頭や広告にレシピが紹介されたことでブログのアクセス数が増え、料理サイトのランキングもどんどん上位になっていきました。そして出版社からもレシピ本出版の話をいただいて。目的に沿って行動していたら、いつのまにか料理家になっていたという感じが強いんです。

     

    料理が苦手な人にとって優しい世界を目指したい

    たっきーママ(奥田和美)さん

    ほとんどの料理家さんは料理が好きでこの仕事をするようになったであろうなか、料理に苦手意識があり、何なら好きではなかった私が「料理家」と名乗っていいのかと、引け目を感じる時期もありました。

    でも、世の中の多くの人、特に主婦の方は、好きで料理をしているというより、必要に迫られて作っているのではないか? ならば私は、料理家の中で誰よりもそんな人たちの気持ちが分かるのでは? と。それに気づいてからは、逆にその気持ちを忘れずに大切にしようと、料理が苦痛な人、好きではない人に、誰よりも寄り添える料理家になろうと思ったんです。

    生きていたら絶対にご飯を食べるし、料理は苦手でもどうしても避けて通れないときが来ますよね。結婚だったり、出産だったり、自分の体の不調だったり。その料理の壁にぶち当たったときに、料理が苦手な人にとって優しい世界を目指したいと、いつも願っています。

     

    余計な手間はなるべく省いて、誰にでも分かりやすく

    たっきーママ(奥田和美)さんhttps://oceans-nadia.com/user/14996/recipe/381073

    たっきーママさんのNadiaレシピで一番人気の「濃厚ミートソース」

    昔のレシピは兼業主婦や子育て中の主婦が作るには手間がかかりすぎだったと思いますし、それが理由で私は料理に苦手意識があり、極力料理を避けて生きてきました。

    だからこそ余計な手間はなるべく省きたい。そして、料理ができる人は「簡単」と思うような工程でも、初心者や料理が苦痛な人には「全然簡単ではない」ということを、忘れないようにしています。

    例えばパスタをゆでるとき、沸騰したお湯にパスタを入れるのは当たり前のことだけれど、初めて作る人はそこからがもう未知なんです。「適量」ってどれくらいなのかを書いてくれないと困る、そんな人たちが確実にたくさんいます。だって自分がそうだったのですから。そうした方でも分かりやすいよう、レシピの表現にはいつも気をつけています。また、面倒くさがりな自分が「作ってもいい」と思えるレシピか? という基準も大切にしています。

    私のレシピは「時短・簡単」なレシピが多いですが、意識してそうしたというよりも「初心者でも理解できる」「不器用な人でも作れる」「一目見て作るのが面倒くさくならない」「誰が作っても同じ味になる」を心がけていたら、自然にそうなった気がします。

     

    レシピは私にできる「恩返し」

    たっきーママ(奥田和美)さん

    またレシピを考えるときは、自分が作りたいものよりも、「求められているもの」を常に考えるようにしています。私が今この仕事を続けていられるのも、間違いなく応援してくださっているみなさんのおかげです。だから、レシピは私にできる唯一の恩返し。

    そのために常にリサーチをして、検索ワードは何が多いか、保存数、コメントで反響の良かったレシピは何かをチェックしているのですが…やはり手の込んだものや難しいものは、私に求められていないなと(笑)。時短、簡単が求められているとしたら、私が追求していることと合致しているし、自分の中で可能な限りの手間を省いたレシピを常に考えています。

    忙しい日や疲れた日のためのレシピもたくさん考案していますが、「疲れたときは、デリバリーでもええやん!」とも思っていますよ(笑)。お惣菜を食卓に出すことにも、私は罪悪感は全然持たないです。ブログにお弁当の写真を載せるときも、読者の方の気が少しでもラクになればと、おかずに矢印をつけて「コープ」「冷凍食品」と書いているし、「冷食上等!」と言っています。

     

    「料理は実験」と気づいてから好きになった

    たっきーママ(奥田和美)さんhttps://oceans-nadia.com/user/14996/recipe/115859

    献立の定番にしたくなるのが、たっきーママさんのレシピの魅力

    現在は、書籍制作を中心に、毎月の連載、広告やサイトのレシピ考案・撮影、テレビ出演、百貨店やスーパーの広告のレシピ制作・撮影などをしています。

    この仕事を始めて、「料理は実験なんだ」と気づいたとき、初めて料理が楽しいと思えるようになった気がします。私は「この工程は本当に必要かな?」と疑問がわいたら、その工程を抜いて作ってみたいし、「なぜこのタイミングで入れるのかな?」と思ったら調べて納得したい。もともと、「実験する」「調べる」ということが好きなんですが、料理の仕事はその連続。それで誰かに喜んでもらえるのは、ほかにはない喜びですね。

    料理の仕事で大変なのは、「続ける」こと。また、発信をするときに、誰かを傷つけないよう言葉を選ぶことです。レシピを考え続けるのは苦ではありませんが、それをブログで毎日発信するのはなかなか労力がいるし、ふとした表現で誰かを傷つけることがないよう神経を使います。ただ、基本的に家にいるのが好きなので、黙々とひとりで在宅でできるお仕事は本当にありがたいですね。

     

    スープジャーやセイロなど、道具を使ったレシピを究めたい

    たっきーママ(奥田和美)さん

    これから特化していきたいジャンルは、便利な調理道具を使ったレシピです。出版社の方に「奥田さんは道具使いの天才ですね」と言われたことがあって。セイロや炊飯器、スープジャーなど、道具を使ったレシピをもっと突き詰めていきたいですね。時間は有限ですから、便利な道具は上手に利用して、自分の時間を有効に使っていただきたいという思いもあります。

    例えば、スープジャー。これをお弁当に使うことの便利さを、もっとみなさんに知っていただきたいですね。おかずを作ってから冷ます必要もないし、お肉も野菜もバンバン入れられるし、盛り付けも不要。もう最高な道具です。最近は、カレーや麻婆豆腐、天津飯など、スープジャーに入れられる「ぶっかけ弁当」のレシピも増やしています。

    それから最近は、セイロにもハマっています。セイロで蒸した野菜はうま味が凝縮されて、すごく美味しいんですよ。冷凍ご飯もセイロで蒸すと、炊きたてみたいに仕上がるし。ただ、セイロを使ったレシピをブログに載せると、いろんな質問が寄せられて。「セイロはどんな大きさがいいのか」「何が作れるのか」「使い方やお手入れは?」……。だからいつかはセイロビギナーの方に向けた、セイロに特化したレシピ本も出してみたいですね。ちょっとニーズは狭いかもしれないですけど(笑)。

     

    Nadiaファンのみなさんのお役に立ちたい

    たっきーママ(奥田和美)さん

    Nadia Artistになったのは、Nadiaの葛城社長からお誘いを受けたのがきっかけ。葛城さんのNadiaに対する想いや愛をひしひしと感じ、一緒にがんばらせてくださいとお受けした形です。

    実は、Nadiaのお仕事で大きな失敗をしたことがあるんです。クライアントに直接お詫びに伺いたいと申し出ると、葛城社長から連絡があり「大丈夫です。何か起きたときのために経営トップがいるので、安心してお過ごしください」と。その後、社長とこの話をしたときも「いや当たり前のことでしょう」と不思議そうに言うのです。この社長のもとでなら信頼してやっていけると思った瞬間でした。

    またNadiaスタッフのみなさんも本当にNadiaを愛していて、メールでの何気ないやりとりからも、Nadia Artistに対してのリスペクトを感じます。まずはそのみなさんの期待に応えたい。与えてくださったお仕事を期待通り、あわよくば期待以上に応えることが、ひいてはNadiaファンのみなさんのお役に立つことにつながると考えています。

     

    料理の仕事で大切なのは人とのつながり

    たっきーママ(奥田和美)さん

    目標を聞かれれば「現状維持」と答えますが、実は現状維持こそが大変。めっちゃがんばって上を目指すとしんどくなるタイプなので、自分のペースで、周りと比較しないようコツコツとやってきましたが、がんばって、がんばってできるのが「現状維持」だと思うので。年を重ねてもこれまでのように、ずっと細く長くでも、料理の仕事をやっていけたらと思っています。

    これからNadia Aritstを目指す方に言えることがあるとすれば、偉そうに言えるほどの立場ではないですが、まずは「誰にも負けないと思える何か」を見つけることかなと思います。料理のジャンルや写真のセンス、何でもいいと思うのですが、自分のアピールポイントを探してみるといいのではないでしょうか。

    それから、このお仕事で一番大切なのは、人と人とのつながりではないかと思っています。ひとりではできないことも、誰かとつながることで道は開けます。ファンのみなさんを大切にすること、また、応援してくださる方がいることを当たり前と思わず、感謝を忘れずにいることでまた誰かとつながり、それが仕事につながることもあります。みなさんにも、出会った方たちをぜひ大切にしていただきたいと思います。

    写真:高橋 しのの  文:室井瞳子

     

    奥田和美(たっきーママ)'s profile
     
    フードアナリスト、フードコーディネーターとして、雑誌、広告、企業のレシピ開発を手がける。「料理レシピ本大賞 in Japan 2016」入賞。「レシピブログアワード」お弁当部門3年連続グランプリ受賞、殿堂入り。最新刊『たっきーママの毎朝ラクする!スープジャーのお弁当』(扶桑社)ほか、著書24冊、累計214万部突破。



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