次女の出産を機に料理への想いが変化
料理を始めたのは、社会人になり、ひとり暮らしを始めてからです。でもその当時は、そこまで料理が好きではなくて…。料理上手な母に、冷凍便で手料理を送ってもらっていたこともありました。ただ、ストックが常にあるわけではないので、節約したいときに作り置きをしたり、ちょっとした自炊はしていたんです。誰かのためというより、自分のために料理するだけ。好きで料理をするといった感じではありませんでした。レトルト合わせ調味料にもすごくお世話になっていましたね(笑)。
結婚して長女が生まれてからも、料理はするものの、なかなか好きにはなれませんでした。毎日の料理も「作らなきゃいけない!」という気持ちで作っていたんです。そんな中、次女を妊娠・出産したのですが、産院の先生がとにかく食事に厳しい先生で。1か月に1kg増えたら管理入院させられたり、献立表を作らされたりと、昔気質の先生だったんです。
でも、ある日、先生に「体重管理の意味もあるけど、料理は作れるようになった方がいいと思う。子どもが大きくなったときに、お母さんの手料理は美味しかったなと思い出したり、やっぱり食って大事なんだよ」と言われて…。出産のための入院中って、なかなか家族に会えないじゃないですか。そんなときに言われると、やっぱり家族に美味しいものを作ってあげたいなと思ってしまう。そこで料理に対する意識が変わったんです。
それに、その産院で出された食事やおやつが、感動するほど美味しかったんですよ。野菜は無農薬で新鮮だし、ドレッシングまで手作りでした。ますます家族にこういう美味しいご飯を食べてもらいたいなって、思ったんですよね。そこからだんだんと、食材を選ぶこと、料理を作ることが楽しみに変わっていきました。
お弁当写真の投稿がきっかけでNadia Artistへ
料理家としての活動はNadia Artistになってからです。もともと歯科技工士をしていたのですが、残業が多く、次女を妊娠したタイミングで退職。しばらくは専業主婦で、お花屋さんのパートを少ししていました。20代半ばの子育て真っ最中は、本当に子どものことしか頭にありませんでした。
娘が成長してきて、子育てにも少し距離をおけるようになってきたころ、長女が強豪校の吹奏楽部に入ったんです。毎日のハードな練習に遠征、そして私は送迎(笑)。部活のためのお弁当作りも始まり、備忘録としてお弁当の写真を載せたInstagramを始めるようになって。Instagramに日々のお弁当や料理の写真を載せていたところ、お声がけいただき、審査を受けてNadia Artistになりました。
写真やレシピもとことんこだわります
自分のレシピをユーザーさんと共有できるのは、本当に幸せなことだし、それを美味しいって言っていただけると、毎回涙が出るくらいにうれしいですね。Nadiaにコメントをくださるのはユーザーの方ですが、その奥にご家族がいて「美味しい」と言いながら食べてくれたんだと思うと、本当に心が温かくなります。
Nadiaでの投稿で気を付けているポイントは、なるべく写真はきれいに、レシピは詳しく分かりやすくということです。写真を撮影するときは美味しそうに見えるよう光を探しながら、テーブルを一周して撮影することも多々あります(笑)。それから、私の大好きな料理研究家・鈴木登紀子さんが、「青みは一株でも大事にして」とおっしゃっていて。その言葉をいつも頭に置いて、メインレシピの添え物などは色味を考えながらスタイリングするようにしています。
最近は、Nadiaで「基本のレシピ」をアップしています。ハンバーグやオムライスなどのいわゆる「名のあるレシピ」って、なんとなく作り方を知っているけれど、実はあやふやなところがあったりもしますよね。そこに私なりのポイント、例えば「チャーハンをパラパラにするコツ」などのちょっとしたテクニックを加えて紹介するようにしています。この「基本のレシピ」は、反応がすごく良くて、ユーザーの方の「これが知りたかった!」という部分と、意思疎通ができているんだなと感じています。
時短・簡単レシピが好まれる傾向にあるので、内心、「スピードや作りやすさを重視したレシピの方がいいのかもしれない」という葛藤もあったのですが…。「基本のレシピ」はお気に入りも多く登録されているので、時短・簡単にばかり寄らない私のレシピもまだまだ需要があるんだなとうれしく思います(笑)。自分が美味しいと思ったり、家族に美味しいと思ってもらえる「とことん味にこだわったレシピ」の発信をぶれずにやっていきたいなと、改めて実感しているところです。
自分が納得するまで、試作の繰り返し
レシピを考える上で心に留めているのが、「食は、人によって絶対に好みが分かれるもの」ということ。美味しいもの、美味しくないものって、絶対に人の好みによるので、すべての方に納得していただくことは厳しいだろうなと思っています。ただ、やっぱりよりたくさんの方に「美味しい」と思ってもらいたいという気持ちがあります。そのため、私は自分が納得する味になるまで「試作」するようにしています。
Nadiaのレシピで特にこだわったのは「麻婆豆腐」。このレシピは、15回くらい作り直しました。毎日毎日麻婆豆腐なので、子どもたちに「また麻婆豆腐!?」と言われたくらい。本当に毎日作って、途中1回嫌になって(笑)。夫にも「もういいんじゃない? だいぶ美味しくなってるよ!」と言われたんですけど、やっぱり納得いかないんですよね(笑)。正直、そこまで試作してたどり着けないということは、私自身、料理のセンスがあるとは言えないと思っているんです…。ただ、自分の求めている味にたどり着くまでとにかく作って食べて、自分が納得したものしかレシピとして出さないようにしています。たとえば、「甘さ」のバランスは、常に気を付けているポイントですね。地域によって甘さ控えめが好まれたり、しっかり甘めが好まれたりするので、この部分は毎回悩んで、その都度自分がベストだと思う味になるまで試作しています。
たぶん、私って、すごく頑固な性格なんです(笑)。自分の中には理想の味があって、そこに近づくまで何回も作り直しをします。それはもしかしたら、母が作ってくれた味なのかもしれないし、外で食べた味なのかもしれない。自分の中で、「この料理は、これ!」という確たるものがあって、そこにたどり着くために「なんか違う」を繰り返すんです。
正直、もっと簡単にできないか、もっと調味料を減らせないか、という悩みはときどき出てきます。でもやっぱり、自分が思い描いている味になるのは、少し多めの調味料や、調味料同士の微妙な組み合わせだったりするので、そこは妥協しないようにしています。
レシピ本出版でたくさんの方に受け入れてもらえたことを実感
ありがたいことに、Nadia Artistシリーズとして、レシピ本も2冊出版させていただきました。レシピ本の出版をお声がけいただいたときは驚きとうれしさもありましたが、それ以上に不安でもありました。本当に受け入れてもらえるのかな…。本、出ちゃったよ、みたいな(笑)。それでも、たくさんの方に買っていただき、受け入れてもらえたという感動があって。せっかく買ってくださったので、私もみなさんに恩返しできないかなという気持ちになりました。
本を出版させていただいたことによって、「自分が美味しいと自信をもって言えるようなレシピを作りたい!」と、心から思うようになったんです。
安心感を与えるNadia Artistになりたい
Nadia Artistになってから、本当にNadiaで働くみなさんに精神面でも支えていただいています。恥ずかしながら、辛かったときに泣きながら話を聞いてもらったこともありました。ただただ受け止めてくださり、本当にありがたかったです。私、なかなか人に悩みを言えないタイプなんですけど、Nadiaで働くみなさんには言えた。きっとそういった環境を知らないうちに作ってくださっていたんですよね。
Nadia Artistとしての目標は、みんなのお母ちゃんのような、親戚のおばちゃんのようなレシピを提供できるArtistになること。作ってくださる方にとって身近に感じられる味だったり、食べたときにどこかほっとする味だったり。美味しいだけではない、安心感もお届けできたらうれしいですね。
写真:高橋 しのの 文:室井瞳子
ちおり's profile
料理家。北海道札幌市在住。19歳と15歳、2人の娘の母。働く主婦、子育て中ならではの等身大の料理が人気を呼び、インスタグラム(@chiori.m.m)のフォロワーは30万人超(2022年9月現在)。主婦目線で、家族から喜ばれ、忙しい女性が助かるレシピ作りがモットー。おうちにある調味料のひと工夫で、より美味しくなる料理が得意。食品メーカーや企業のレシピ開発、月間料理情報誌掲載、コラム執筆多数。著書『とことん味にこだわった! ちおりの簡単絶品おかず』、『定番ばかり200品! ちおりの簡単絶品おかず2』も好評発売中!
ちおりさんのプロフィールはこちら
Nadia Artistになりたい方へ。申請ページはこちら