• 公開日2026/07/28
  • 更新日2026/07/28

心も体もいたわる麹ごはんで、誰かの毎日に寄り添いたい|#60 ここえみ

NadiaのArtistにスポットを当て、ここでしか聞けない裏話や料理研究家さんの想いをお送りする「Artist History」。今回ご紹介するのは、産科・小児科で栄養指導を担当する栄養士として働くかたわら、麹や発酵食品を使った心にも体にも優しい料理を提案してくれるここえみさん。料理と同様、あたたかな人柄も魅力のここえみさんに、これまでの道のりやレシピに対するこだわり、Nadiaに対する想いなど、お話を伺いました。

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心も体もいたわる麹ごはんで、誰かの毎日に寄り添いたい|#60 ここえみ

 

闘病で気づいた、当たり前の日々と周囲への感謝

ここえみさんArtistHistory1

はっきりと「このときから料理を始めた」と言えるタイミングは、実はあまり覚えていません。気付いたときにはもう、母のそばでキッチンに立つのが当たり前のような日々でした。

母が作ってくれるごはんの匂いや、まな板のトントンという音が好きで、自然とその隣に立つようになっていたんです。母の手際を見て「何を作るんだろう」とワクワクしたり、ほんの少しだけ食材を触らせてもらえるのがうれしかったり。その小さな積み重ねが、私の“料理って楽しい”の原点です。

料理が好きという自覚は最初からあったので、栄養士の資格を取ることにも迷いはありませんでした。短大で栄養士資格を取得後、社会人向けの学校で栄養士として勤務し、調理師と一緒に現場にも立っていました。

その後、薬剤師のサポートを行う栄養士業務に就きましたが、結婚を機に一度離職。実はその頃、病気が発覚し、そこから長い闘病生活が始まりました。そして、リスクと覚悟を抱えての妊娠・出産時に、患者として向き合っていた産科・小児科の栄養士の姿に憧れを抱き、「元気になったら、絶対にこの分野の栄養士になりたい」と強く願うようになりました。

ここえみさんArtistHistory2

その想いが届いたのか、すべてが奇跡のように重なり、前に働いていた会社で産科と小児科で栄養指導をする栄養士として再スタート。気づけば、もう20年以上が経ちました。

ふり返ってみると、病気になって覚悟のうえで妊娠・出産をした経験は、大きなターニングポイントになっています。ごはんを美味しく食べられることは当たり前じゃないと気付けたのも、その経験があったから。趣味のランニングも阿波踊りも、元気があればこそです。周りのサポートなくしては闘病できなかったし、自分も周りにお返ししていきたいといつも思っています。

 

麹は毎日のごはん作りをラクに、美味しくしてくれる相棒

ここえみさんArtistHistory3

私の料理作りの軸にあるのは、“優しくて、美味しくて、毎日続けたくなること”。その中心にあるのが「麹」です。

最初に麹にはまったのは、10年以上前のこと。ちょうどその頃、娘の食が細いことに悩んでおり「麹を使ってみたら何か変わるかな」と試してみたところ、娘もよく食べるし、味も美味しいし、すっかりはまってしまったんです。

塩麹や醤油麹を使うと、複雑な工程がなくても素材の味がふわっと引き立ち、家族みんながほっとする深みや丸みが生まれます。私自身、“無理せず美味しく作れる料理”が好きで、麹の優しい発酵の力に何度も助けられてきました。麹は“毎日のごはん作りを少しだけラクに、でも確実に美味しくしてくれる”頼れる相棒のような存在です。

ここえみさんArtistHistory9

また塩麹や醤油麹は「麹があるからこそ、ほかの調味料は少しでいい」「麹のうま味がベースになり、味が自然と整う」、そんな“寄り添い型”の調味料だとも感じています。

だからこそ麹に頼り切るのではなく、みりんや酒、オイスターソースなど、普段使いの調味料とのバランスを大切にしています。麹の良さを引き出しつつ、普段の延長で作れる親しみやすい味――それが私のレシピの魅力だと思っています。

 

娘の言葉でレシピ発信をスタート

ここえみさんArtistHistory4

レシピ発信のきっかけは、娘の助言でした。コロナ禍で家族全員が在宅になり、毎日3食を準備する日々。大変なはずなのに、私はその状況が楽しくて(笑)。移動の時間がないので自分の時間も増えたし、夫や娘にはできたてを食べてもらえる。毎日楽しそうにキッチンに立つ姿を見て、娘が「絶対に発信したほうがいい!」と背中を押してくれたんです。

最初は「無理無理無理!」と即答で断ったのですが(笑)、娘の将来のためにレシピを残しておくのも悪くないと考えて、発信を始めました。今ふり返ると娘のひと言がなかったら、私の料理家としての世界は始まっていなかったと思います。発信を通じてたくさんのご縁がつながっていったのは、間違いなく娘のおかげ。心から感謝しています。

ここえみさんArtistHistory5

レシピを発信する中で一番の喜びは「作ってみました」「家族が喜んでくれました」という声をいただく瞬間です。食卓のひと皿が誰かの日常を温かくしたり、負担を軽くしたりできるのだと思うと、レシピを作り続ける力になります。

また、長く活動する中で「麹のレシピが楽しみです」とお声がけをいただく機会も増え、自分の届けているものが誰かの生活のリズムの一部になっていることがありがたく、何よりの励みになっています。

一方で、発信を続ける上での大変さもあります。撮影や編集に時間がかかったり、栄養士業務とのバランスのとり方が難しかったり。ただ、苦労よりも“誰かの毎日に寄り添いたい”という気持ちの方が大きく、この積み重ねがいつの間にか自分のペースになって、今日まで続けてこられたのだと思います。

 

Nadiaから声がかかって家中がお祭り騒ぎに

ここえみさんArtistHistory6

Nadia Artistに登録したきっかけは、編集長の黒澤さんから直接ご連絡をいただいたことです。あのときの驚きと喜び、そして「ちゃんと届いていたんだ」という感動は、今も忘れられません。

私も娘も大喜びで、家中お祭り騒ぎ。夫もNadiaをよく見ていたので、「その連絡は本物か?」と最初は疑ったりもしていました(笑)。

ここえみさん初のレシピ本『発酵食品ソムリエ・ここえみの塩麹・しょうゆ麹で毎日のおかず』書影

初のレシピ本、『発酵食品ソムリエ・ここえみの塩麹・しょうゆ麹で毎日のおかず』(宝島社)。
麹初心者もいつものおかずに取り入れやすいのが魅力。

今も家族は、Nadiaのお仕事を応援してくれていて、Nadia用の料理を作ったり撮影をしたりしていると、そっと距離を保ちながら見守ってくれます。私の集中している時間を大切にしてくれる、そのさりげない気遣いがありがたくて、日々支えられていると感じています。

また私もNadia Artistになったことで、レシピの発信がより責任あるお仕事として意識できるようになりました。Instagramは、日々の気づきや暮らしの中で生まれたレシピを等身大のまま届けられる場所。

一方でNadiaは、多くの方が検索してたどり着く“レシピの図書館”のような場所です。「誰が作っても再現できる表現になっているか?」を特に意識して、丁寧に整えるようになりました。

Nadiaのお仕事で特に印象に残っているのは、スーパーに置かれている冊子『おあじはいかが』の巻頭特集です。

ここえみさんが巻頭を担当した冊子「おあじはいかが」

スーパーなどで配布されている冊子
『おあじはいかが』。
季節感のあるレシピや料理にまつわる情報が満載です。

季節に合わせたテーマをいただき、旬の食材や気候に寄り添ったレシピを考える時間は、私自身の生活にも豊かさをくれる大切なひととき。編集部とのやり取りも毎回あたたかく、丁寧にフィードバックをいただきながら一緒に作り上げていくプロセスは、「誌面を作るってこんなに楽しいんだ」と感じさせてくれる経験です。

連載が進むにつれて「来月はどんなテーマかな?」とワクワクし、自分の中の引き出しを深く掘りながら組み立てていく時間が増え、料理家としての視野がぐっと広がったお仕事だと感じています。

※2026年7月現在、巻頭特集の担当料理家は交代しております(編集部注)。

 

あたたかい食卓作りを応援していきたい

ここえみさんArtistHistory7

料理家としての夢は“日々のごはん作りが少しでもラクに、優しくなるレシピ”をもっと多くの方に届けていくことです。特に、私がずっと向き合ってきた麹調味料を中心に「無理をしなくてもちゃんと美味しい」「家族の笑顔につながる」、そんなあたたかい食卓作りを、これからも丁寧に発信していきたいと思っています。

またNadia Artistとしては、レシピだけでな “献立”や“食卓の提案”といった、もう一歩先の部分にもチャレンジしていきたいです。毎日のごはん作りは、材料選びや段取り、体調や気分など、いろいろな要素が重なってできあがるもの。そこに少しでも寄り添い、「今日の気持ちに合っている」と思っていただけるようなまとめ方を探求したいと思っています。

ここえみさんArtistHistory8

そしてもうひとつの夢が「誰かの背中をそっと押せる存在になる」ことです。レシピを見た方が「これなら作れそう」と前向きな気持ちになれるような、あたたかくて誠実な発信者でありたいです。無理に背伸びをせず、今までの積み重ねを大切にしながら、これからのご縁やお仕事を丁寧に育て、その先にある景色を楽しみに歩んでいきたいと思っています。

Nadia Artistへの道は、近道があるわけでも、誰かとくらべて決まるものでもないと思っています。料理が好きで「誰かの毎日を、少しでもラクに明るくできたら」と願って続けていると、自然と道が開けていくような気がします。「自分のペースで続けていくことが一番の力になる」。そう思いながら、どうか心地よく前へ進んでください。

写真:高橋 しのの  文:室井瞳子

 

ここえみ's profile
 
栄養士、腸活アドバイザー、発酵食品ソムリエ。栄養士として、産科や小児科で栄養指導に携わるかたわら、「作ることも食べることも楽しんで」をモットーにほっと安らげるおうちごはんレシピを発信。特に麹を使ったレシピに定評があり、「旬の食材×麹」で心にも体にも優しい麹ごはんを提案し、健康意識の高い層を中心に幅広く人気を集める。2025年8月に出版した初のレシピ本、『発酵食品ソムリエ・ここえみの塩麹・しょうゆ麹で毎日のおかず』(宝島社)も評判を呼んでいる。

ここえみさんのプロフィールはこちら
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