さて、前回(→クリックで飛べます)までに見てきた通り、パルミジャーノ・レッジャーノは、イタリアで15世紀までに「チーズの王様」としての地位を確立しました。
・・・けれど、みなさん、ちょっと考えてみたことはありませんか?
「パルミジャーノ・レッジャーノって、どうしてあんなにも大きいのでしょうか?」
「それに、どうしてあんなに硬いの?」
そう、チーズはいろいろあるのに、なんだか不思議ですよね。
そしてパルミジャーノ・レッジャーノについてよく知る方は、こんなことも思われるかもしれません。
「パルミジャーノ・レッジャーノって、限られた生産地域で作られたものだけに許された名前だと聞くけど、一体なぜ?」
「パルミジャーノ・レッジャーノのこと、"パルメザンチーズ" と言うのは間違いなの・・・?」
今回は、引き続きパルミジャーノ・レッジャーノのふるさと、ポー川流域の事情に目を向けながら、このチーズの秘密とその魅力をさらに掘り下げてみたいと思います。
* * *
↑ パルミジャーノ・レッジャーノ生産地域の牧草と植物性飼料のみで育てられる乳牛。(画像出典:パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会公式HP)
イタリア北部、アルプス山脈の南を流れるポー川の流域。
中世以降、修道士たちの手によって灌漑工事が行われ、広大な農業地帯へと変貌を遂げた肥沃なこの土地が、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズのふるさとです。
ヒツジやヤギに比べると大量のエサを必要とする乳牛ですが、その飼料は今や、このポー川流域一帯に広がる豊かな耕作地で収穫できるようになりました。
パルミジャーノ・レッジャーノの大きな特徴のひとつが、あの1個あたり40キロにもなるという大きさ。単純に見積もっても、これを1個作るには約550リットルもの牛乳が必要だそうですが、そんなチーズを作るためには、何より大量の牛乳と多くの労働力、そしてチーズ作りに関する知識と技術が不可欠でした。
↑ アルプス山脈の北側、現在のスイスにあるザンクト・ガレン修道院。修道士たちは自ら森林を伐採して耕作地を切りひらき、また牧畜を行ってチーズを作るなどしていた。
そのため、当初パルミジャーノ・レッジャーノというチーズの製造には、ポー川の灌漑事業に従事した修道士たちの功績が大きかったのではないかと推測されています。
というのも、本来あのような大型のチーズはアルプスな どの山の上で作られる「山のチーズ」に見られるもので、そのようなチーズを作っていた者の多くは、ほかならぬあの修道士たちだったからでした。
↑ 熟成中の「山のチーズ」。
見た目がどこかパルミジャーノ・レッジャーノをも思わせる「山のチーズ」は、何よりその「硬さ」と「大きさ」で知られています。
それはひとえに、厳しい冬に備えて保存がきくようにするためと、山の上からでも運びやすくするためです。そして、これほどの大きなチーズを作ることができるのは、製造過程でしっかりと水分を抜き、圧搾しているから。
つまり、このポー川流域という土地には、そんな高度なチーズ作りの技術を持つ修道院とのつながりと、「山のチーズ」のふるさとであるアルプス山脈へのアクセスの良さという好条件がそろっていたのです。
↑ 地中海の玄関口、水の都・ヴェネチア。
しかもポー川という水源は、豊かな牧草地を育み、牛乳という新たな原材料をもたらしてくれただけでなく、重要な交通路としても機能していました。
ポー川をずっとたどっていくと、やがてはアドリア海へと出ます。そこには古くから交易で栄えてきた、あの水の都・ヴェネチアがありました。
パルミジャーノ・レッジャーノは、海上貿易の拠点として栄えてきたこのヴェネチアから船に乗せられ、地中海地域のさまざまな場所へと運ばれていきます。やがては遠くイギリスにまで運ばれ、高い評価を受けたそうです。
そしてヴェネチアにはもう一つ、チーズ作りに欠かせない塩がありました。
ヴェネチアは昔から塩の製造・流通で有名な都市でしたので、山の上でのチーズ作りでは使えなかった大量の塩をポー川に沿って運び、チーズ作りの原料とすることができたのです。
こうして塩をふんだんに使った丈夫な大型のチーズは一層保存性が高まり、また海を渡っての輸出にも耐えるものとなっていきました。
ポー川という自然の恵み。
チーズ作りに関する豊かな知識と経験。
チーズ普及に役立つ流通ルート。
チーズ作りに欠かせない塩の確保――。
ポー川流域にそろったこれらの好条件は、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズそのものの品質・味の良さと相まって、このチーズにより大きな名声をもたらすことになったのです。
* * *
>>> パルミジャーノ・レッジャーノおはなし。(3) へ続く。
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