こんにちは、庭乃桃です。
今月のテーマは、ハーブとスパイス。
日本にも、青じそ(大葉)やわさび、七味唐辛子、柚子こしょう、山椒など、毎日のお料理に使うハーブやスパイスがたくさんありますよね。
とくにこの梅雨の時期になると、じめじめして湿度も高いせいか、食欲を増進させたり、おかずの腐敗を防止したりと、何かと活躍の機会が多くなってくると思います。
そんな数あるハーブやスパイスは、もちろんヨーロッパのお料理にも欠かせないものです。
ものによっては、ほんの一振りするだけで「異国の香り」とでもいうのか、日本にいながらちょっとした小旅行にでも行ったような気分になれてしまうことも。
そこで今回は、ヨーロッパの食卓にとってのハーブとスパイスの意味についてちょっと考えてみることにしましょう。
するとそこには、ヨーロッパの人々の毎日の暮らしの様子や、ほほえましい食卓の風景がほんの少し垣間見えてくる気がするのです。
みなさんは、「ハーブ」というと何を思い浮かべますか?
そして、「スパイス」というと、何が一番に思い出されるでしょうか?
・・・というか、そもそも、
「ハーブって何?」
「スパイスって、どれのことを言うの?」
なんて、思われることもあるかもしれませんね。
たとえば、さわやかな香りが魅力のこのローズマリーは、ハーブでしょうか? スパイスでしょうか?
通常このローズマリーは、いわゆる「キッチン用ハーブ」という言い方がされることが多いように思います。
要するに、「料理に使われる、香りや風味をプラスすることのできる植物」といった意味ですが、だったらスパイスにだって、そんな役割はありますよね?
黒や白、緑、赤と種類はいろいろありますが、これはハーブでしょうか? スパイスでしょうか?
「これはスパイスでしょう。だって、『香辛料』だもの!」
そんな風に思われるかもしれませんが、よくよく考えてみると、「香辛料」というのは読んで字のごとく、香りや辛さなどの風味づけ(場合によっては色づけも)ができる食材のことですから、これも実はハーブとの区別というのが案外あいまいな気もします。
・・・実は、ハーブやスパイスと言った時に思い出されるものは、人によってかなり違っていたりもするんです。
これは、ハーブやスパイスを区別する場合に「どこに目を付けるか」によっても異なります。
たとえば料理をする方からは、
「『ハーブ』というのは、生の花や葉っぱのことを言うんじゃない?
だって、ローズマリーにしたってバジルにしたって、全部緑色をしている『葉っぱ』でしょう。」
「逆に、『スパイス』といったら、なんとなく乾燥しているものが多い気がする。こしょうにしても、カレーに使うコリアンダーやクミンにしても、あれはどう見ても『実』だとか『種』だとかよね?」
という意見をよく聞きます。
しかし実は、こうした分類方法には穴があります。
たとえば、このクローブ(丁子)。
これは、見た目にも乾燥していて、だいたいがどんな本でも「スパイス」に分類されていることが多いのですが、実はこれ、種でも実でもなく、花のつぼみの部分なんです。
そして、いっそう複雑なのが、こちらの丸い粒々がかわいいコリアンダー。
コリアンダーって、実は、シャンツァイ(香菜)のことです。
英語ではコリアンダー、中国語ではシャンツァイ、タイ語ではパクチー。
全部、同じものなんですね。
そんなコリアンダー、写真は完熟した種子の部分を乾燥させたものですが、ご存じの通り、葉っぱや茎、根っこの部分もお料理に使えます。
もはやこうなってくると、「じゃあ、コリアンダーは、ハーブなの? それともスパイスなの?」って、思わず頭を悩ませてしまいますね。
こうしたハーブとスパイスの区別があいまいなのは、何も私たち日本人の間でだけではありません。
何がハーブで、何がスパイスか――。
実はヨーロッパでも、これはおそらく人によって、言うことが若干違うだろうと思います。
しかしヨーロッパの場合には、なんとなくひとつの共通理解のようなものがあり、それが「ハーブ」や「スパイス」と言った時に思い浮かべるもののぼんやりとしたイメージに強く結びついているのかと思います。
そんなことは、具体的には「ことば」を見ていくことでわかるので、ちょっとご紹介してみますね。
「ハーブ(herb)」――。
これは、もとは英語です。そしてさらにその起源をたどってゆくと、ラテン語で「草」を意味する「herba」という単語に行きつきます。
しかしこれは、何も食材としての「草」だけではなく、ヨーロッパでは昔から薬効性のある草を病気の治療に使ったり、健康茶として飲んだりもしていたので、そういう役に立つ「草」が家々の周りの庭にはたくさん生えていたのでした。
一方、「スパイス(spice)」という言葉はどうでしょうか――?
こちらはラテン語の「species」ということばに由来しており、ヨーロッパでは昔からよく、「遠方から運ばれてくる品物」という意味で使われることがありました。
つまり、遠くの土地から運ばれてくる物資を扱う税関の役人たちの間では、おそらく、「今日、どこどこから例の "ブツ" が届くよ!」なんていうやり取りがされていたんです。
そして、その中でもとくに重要で高価だったものこそ、いま私たちが「スパイス」や「香辛料」などと言っている食材だったのでした。
実際、こしょうにしても、シナモンにしても、クローブにしても、ナツメグにしても、現在、「スパイス」と表現されているものの多くは、ヨーロッパの気候では到底育たない植物ばかりです。
それははるばる海を越えてヨーロッパへともたらされましたが、それには輸送費もかかりましたし、生の葉っぱのままなんかですと、傷んでしまったりかさも増えてしまって余計に運ぶのが大変でした。
ですからスパイスというのは、乾燥した保存の効く状態であるものが多く、また少量でも香りや色、風味が強いものが多いのです。
そしてそんなスパイスは、高額な関税をかけられて取り引きされ、そしてようやく貴族などの高級な人々の食卓へと並べられたのでした。
現在、私たちは、ハーブもスパイスもさまざまな種類のものを気軽に楽しむことができます。
そしていま日本では、「何がハーブで、何がスパイスか」というその定義はさまざまな形で理解されています。
しかし少なくともヨーロッパの感覚で言うと、ハーブというのはいつもその辺に生えていて、毎日気軽に摘み取ることができるなじみの深いもの――。
それに対して、スパイスというのは、どこか遠い異国の匂いがして、エキゾチックで、ちょっぴり高価で、お料理をいっそうおいしくしてくれるごちそう感のあるもの――。
おそらくきっと、そんなイメージがあるのです。
ハーブが茂った庭と、棚に並べられたたくさんのスパイスの瓶――。
そのどちらも、ヨーロッパの人にとってはどこか家庭のぬくもりを感じさせる、そんな食の風景のひとつであるにちがいありません。
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