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2015.05.20

野菜の女王・アスパラガスのおはなし。(2)

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ヨーロッパ アスパラガス ホワイトアスパラガス 世界 野菜 食文化 食材 食生活 マメ知識
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こんにちは!庭乃桃です。

 

連載6回目の今日は、前回に続き、日本でも今まさに旬を迎えているアスパラガスのお話をしていきたいと思います。

 

 

「野菜の女王」、「マドモワゼルの指先」、「王の野菜」、「食べる象牙」、「白い金」――。

 

これ、いったい何のことだと思いますか?

そう。実はこれは皆、ホワイトアスパラガスのことを言い表しているんです。

 

前回、ヨーロッパでは「アスパラガス」というと、まず第一にホワイトアスパラガスのことを指すことが多いというお話をしました。(※前回の記事は→こちら

春を告げる野菜。ヨーロッパの人が愛してやまない、アスパラガス――。

さて、ではそんなアスパラガスは、一体いつ頃からヨーロッパで食べられるようになったのでしょうか?

 

 

↑アスパラガスの若芽(=食用となる部分)。花、実、根、葉っぱ(擬葉)のかたち。


歴史的に見ると、アスパラガスはずいぶん昔から人々に親しまれていた野菜だったことがわかります。

そもそもアスパラガスの原産地は南ヨーロッパからロシア南部にかけてだと言われていて、特に地中海周辺に住む人々にとっては、その辺の木の下に群生している山菜のように身近なものでした。


ですから、古代ギリシアの人も、古代ローマ帝国の人々もそれを採ってくるのを毎年楽しみにしていて、ローマに至ってはあまりの人気にわざわざ栽培まで始めてしまったほど。


「すべての栽培植物のうちで、アスパラガスはいちばん細やかな注意を必要とする。(中略) ただし今日では、人々は2月13日頃小さな溝をつくって種子をとこ ろどころにかためて埋める。ふつう前もって種子を肥料の中にひたしておく。こういう方法をとると、根がからみ合って束をつくる。それを秋分の後に1フィー ト間隔で移植する。そうするとアスパラガスは10年間生え続ける」――。(大プリニウス『博物誌』第19巻42)

 

古代ローマでのアスパラガスの栽培は、なんとすでに紀元前の頃から行われていたのです。どうやったらより良いアスパラガスが育てられるか、こんな風に懸命に工夫が凝らされていたのですね。

 

 

 

その後はローマ帝国の解体と共にあまり引き合いに出されなくなったアスパラガスですが、古代ギリシアの昔から利尿作用があることやさまざまな薬効が知られていましたので、修道院の庭などでは細々と栽培が続けられていたようです。

↑食物と健康との関係などについてまとめられた中世のハンドブック、『健康全書(Tacuinum Sanitatis)』より。「アスパラガス」の挿絵。

 

そして、古典古代(ギリシア・ローマ)の文化の復興を謳(うた)ったルネサンス期には、再び祝宴の料理に欠かせないものとなります。

 

さ らに時代は下り、絶対王政期――。

かのフランスの太陽王・ルイ14世(1638-1715)の好物のひとつが、まさにこのアスパラガスでした。

美食家だった王 は、アスパラガスがあまりにも好きすぎて、いつでも食べられるようにと、ヴェルサイユ宮の菜園になんと6000本もの苗を植えさせていたのだそうです。

 

↑ヴェルサイユ宮の敷地内に造られた、「王の菜園(Potager du Roi)」。土壌の改善や排水システムの完備により、ここでは早生の果実や野菜がたくさん育てられていた。アスパラガスやレタスも、王の命令で季節外れの12月に収穫できるようにされたという。

 

しかしいずれの時代にも、アスパラガスは野菜の中でも特に高価なものでした。


栽培に手間がかかり、収穫や食べられる季節が限られる――。

それだけで価格は跳ね上がり、栽培種のアスパラガスは、庶民にはとても手の届かない「高貴な野菜」となっていたのです。

ですから旬の季節にアスパラガスを食べられるということは、ごく少数の限られた人々だけが味わえる最高の贅沢でもあったのですね。

 

 

↑フランスの画家、エドゥアール・マネ(1832-1883)作、「アスパラガスの束」。


その証拠に、『美味礼賛』という書物を著わしたフランスの食通、ブリア=サヴァラン(1755-1826)は、こんなエピソードを残しています。


ある日、パリで最も有名な食料品店で、彼は素晴らしいアスパラガスの束を見つけます。が、その値段はなんと40フラン――。当時は労働者の一日の収入が2.5フラン程度だった時代で、この値はとんでもなく高いことを意味していました。


そこで彼は女店主に言います。

「まったく見事だ。だがその値段じゃ、陛下か殿下ででもなけりゃ食べられないね」――。

しかしそれを横目に、ある羽振りの良い男性がやって来て、値段も聞かずにそのアスパラガスの束を買うと、口笛を吹きながら去って行ってしまったというのです。

 

 

 

そして、現代――。


嬉しいことに、栽培法の進化や流通システムの発達により、もとは高貴な食べ物だったアスパラガスも、近頃では価格がかなり抑えられて手頃な値段で口にすることができるようになりました。

 

中でも、ヨーロッパの北の方、ベルギーやオランダ、フランス、ドイツなどではホワイトアスパラガスの人気が極めて高く、春になると街のレストランにはそれを使ったお料理がずらりと並びます

少し南の方では、北イタリアのバッサーノ、スペイン北部のナヴァーラなども名産地として大変有名です。

グリーンアスパラガスも、その栄養価の高さや調理の手軽さで大変親しまれていますが、やはり手間ひまかけられ、大切に大切に育てられた「高貴な野菜」・ホワイトアスパラガスには、何か特別感があると言わざるをえません。

 

そこで次回は、そんなホワイトアスパラガスに熱狂する春のヨーロッパの様子をお伝えしたいと思います。

おいしそうなお料理もいよいよ登場しますよ。お楽しみに!

 

 

 

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