"さて、安息日が終わって、週の初めの日の明け方に、マグダラのマリアともう一人のマリアが、墓を見に行った。すると、大きな地震が起こった。
主の天使が天から下って近寄り、石をわきへ転がし、その上に座ったのである。その姿は稲妻のように輝き、衣は雪のように白かった。番兵たちは、恐ろしさのあまり震え上がり、死人のようになった。天使は婦人たちに言った。
「恐れることはない。十字架につけられたイエスを捜しているのだろうが、
あの方は、ここにはおられない。かねて言われていたとおり、復活なさったのだ。
さあ、遺体の置いてあった場所を見なさい。それから、急いで行って弟子たちにこう告げなさい。
『あの方は死者の中から復活された。そして、あなた方より先にガラリヤに行かれる。
そこでお目にかかれる。』確かに、あなたがたに 伝えました。」
婦人たちは、恐れながらも大いに喜び、急いで墓を立ち去り、弟子たちに知らせるために走っていった。
すると、イエスが行く手に立っていて、「おはよう」と言われたので、婦人たちは近寄り、イエスの足を抱き、その前にひれ伏した"――。
(新共同訳聖書『マタイによる福音書』第28章より)
* *
今年、4月5日(日)は、イースター(復活祭)です。
・・・でも、そもそも「イースター」って何?
結局、何をするイベントのことなの?
なんて、思ったことはありませんか??
最近では、日本でもハロウィンと並んで話題にのぼるようになったこのイースター。
今ちょうどディズニーシーなどでもイベントが行われているようですので、名前くらいはどなたも一度は耳にされたことがあるかと思います。
イメージとしては、何やら 「卵」 的なものがからんでくる感じがすると思いますが、まさしくその通り!
イースターエッグに、イースターバニー。
そうそう、「うさぎ」なんかもよく登場しますよね。あとは、「ひつじ」、「にわとり」、「ひよこ」とか――。
これらは皆、すべてイースターに関連するものです。
だからイースターをお祝いする食卓は、こうしたモチーフでいっぱい。
でもそれは、一体なぜなのでしょうか? どうしてそれが、キリストの復活と関係があるのか??
今日はそんなヨーロッパのイースターの食卓の様子をご紹介しながら、「イースターって何?」という疑問にもお答えしていきたいと思います。
キリスト教が広まる以前、ヨーロッパに住んでいた人達は季節ごとにさまざまなお祭りを行っていました。
そしてそんな人々のお祭りの記憶を、キリスト教が上手く活用し、新しい形で発展させたというお話は前回触れましたね。(※コラム第2回: 今夜のごはんは何にする?《 ヨーロッパの四季とキリスト教 》 を参照。)
そう、このイースターという行事は、まさにそうして生まれたものなんです。
イースターとは、イエス・キリストの「復活」を祝うと共に、冬に別れを告げ、春を迎えるお祭りのこと――。
長くて厳しいヨーロッパの冬は、昔の人にとってはすべての生命が沈黙する「死」の象徴でした。
ところが春になれば、それまですっかり枯れたように見えていた木々が一斉に芽吹き、山々に緑があふれます。
そのイメージは、この記事の冒頭に引用したような、十字架にかけられて命を落としたイエス・キリストが「復活」を遂げた姿と見事に重なるものだったのです。
そこで登場するのが、例の 「卵」。
何と言っても、卵は生命の象徴ですものね。
だからイースターには、卵のお料理が必ずと言っていいほど食卓にのぼります。
白身と黄身のコントラストを見ているだけで何だか明るい気持ちになれますし、何より「黄色」というのは「太陽」、「活力」を表す色――。
春になれば暖かい陽射しが降り注ぐようになり、光があふれます。
日照時間の短いヨーロッパの人々にとっては、それは何より嬉しいことだったのでしょう。
そしてヨーロッパの人達にとって、その黄色と並んで春を想わせる色となるのが「緑」です。
こちらは文字通り、芽吹いた草木の色。
ですからこの時期、花屋さんには黄色のチューリップや水仙がたくさん並べられます。
こうしたお花はイースターの食卓にももちろん飾られ、黄色と緑、そして明るいパステルカラーの小物類がテーブルを華やかに彩るのです。
このほか、キリスト教にとって特別な意味を持つ「ひつじ」や「ハト」は、やはりイースターでも好まれるモチーフの一つ。
そして、「多産」や「豊穣」を象徴する「うさぎ」。
同じく「生命」や「再生」の象徴であり、卵とも関連のある「ひよこ」、「にわとり」なんていうものも、縁起物としてよく取り上げられます。
たとえば、スイスの有名チョコレートメーカー、リンツ社(Lindt&Spruengli)のゴールド・バニーのチョコレートはよく知られていますよね。
春が近付くと、ヨーロッパのお店はたまごの形のチョコレートでいっぱいになるのですが、それと同じくらいたくさん並ぶのが、こうしたうさぎのチョコです。
ところで、イースターというのは、たとえばクリスマスなどのように毎年同じ日に行われるものではありません。
ですから、今年は4月5日の日曜日。でも来年は、3月27日の日曜日――。
何だか不思議な感じがするかもしれませんが、イースターは「春分の日を過ぎて、最初の満月を迎えた日のあとの日曜日」と決まっているので、このようなことになります。
そして、一般に「イースター」と呼ばれているのはこの「日曜日」のことで、実はその前後にもさまざまな関連の日が設けられています。
昔は、それこそ120日間(約4ヶ月)にもわたって行われていたというのですが、今では特に復活祭までの一週間が中心になっているので、ためしに今年の場合で見てみましょう。
3月29日(復活祭の一週間前) 「枝の主日」
4月3日 キリスト受難の日 「聖金曜日」
4月5日 「復活祭の日曜日」
「枝の主日」は、復活祭当日の一週間前の日曜日のこと。イエス・キリストがイェルサレムに入城したことを記念するもので、群衆がナツメヤシの枝を手に持ち、迎えたことからこの名がついています。この日から一週間を、「聖週間」と呼び、いよいよ復活祭の気分が高まります。
「聖金曜日」というのは、キリストが十字架にかけられて亡くなった日です。特に息を引き取ったとされる午後3時には、各地でミサや祈祷会が行われ、以降、毎日定時に鳴っている教会の鐘は、キリストの死を悼んで復活祭まで止められます。
そしてキリスト復活の当日となるのが、「日曜日」。
この日に鳴る鐘は、いつにも増して高らかに響き渡り、キリストの復活を盛大に、喜ばしくたたえます。
実は、一年の中でキリスト教最大のイベントとなるのはクリスマスではなく、このイースターなのです。
国によってもいろいろですが、クリスマス時期と同様、祝日となることが多く、学校やオフィスが休みになるほか、皆が家族の待つ家に帰ってイースターを共に過ごそうとします。
卵にうさぎ、ひつじにハト、ひよこ、にわとり――。
イースターの期間中は、キリストの受難に想いを馳せてその復活を祝い、荘厳なミサに参加する。
そして同時に、こうしたモチーフのものをたくさん並べながら、春の訪れを祝い、大いにごちそうを食べて、家族や親戚達と喜びの中で楽しく過ごすのです。
・・・ところで。食いしん坊さん達にとって気になるのは、やはりこの「ごちそう」の部分。
というのも、このイースター、ヨーロッパの人々にとってはごちそうを久々に心置きなく食べられる日でもあるからです。
このイースター(復活祭)に至るまでの期間を、西方キリスト教世界では「四旬節」と呼びます。
だいたい2月くらいから始まるのですが、この期間は復活祭への準備期間、キリストの受難に想いを寄せる時期とされ、伝統的に「食事の節制と祝宴の自粛」が推奨されます。
ようするに、
「肉とかモリモリ食べまくらないように!」
「宴会してどんちゃん騒ぎなんてもってのほか!」
「心穏やかに、できるだけ静かに過ごすように!」
と、いうこと。
だから、こうして迎えるイースターは、春が来たことを喜びながら、家族みんなで楽しく過ごし、好きなものを思い切り食べられる機会でもあるというわけです。
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最後に、そんなごちそうをいくつかご紹介しておこうと思います。
(以下、料理名にレシピをリンクしてありますので、よろしければ大きな写真と共にご覧下さい。)
ひつじのお料理は、キリスト教関係のイベントの時にはやはり特に好まれます。羊肉は初めてという方でも食べやすい、シンプルで美味しい一皿。
◆ドイツ風ミートローフ「偽うさぎ」 Falscher Hase
イースターの主要モチーフ、「卵」と「うさぎ」のメッセージが込められたミートローフ。ミートローフをうさぎの丸焼きに見立てているというところが面白いです。
◆リグーリア風 イースターのパイ トルタ・パスクアリーナ Torta pasqualina
こちらは卵の黄色とほうれん草の緑が春らしい、イタリアのイースター・パイ。チーズや卵などの "贅沢品" をふんだんに使っているところも、イースターらしいですね。イースター期間中には家族でピクニックに出かけたりもするので、上のミートローフ同様、お弁当として持って行けるお料理も重宝されます。
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イースターは、春の訪れを共に祝う日。
皆さんも、思い思いのごちそうを用意して楽しんでみられてはいかがでしょうか。
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