こんにちは!庭乃桃です。
このコラムの連載も、今日で8回目となりました。
今回は、先日Nadiaで公開になったばかりの企画、「イタリアチーズの王様、パルミジャーノ・レッジャーノ!!」(→クリックで飛べます)にからめながら、「チーズ」のお話をさせていただこうかと思います。
大人も子供も、皆が好きなチーズ。
きっと皆さんの中にも、「チーズ大好き!」という方がたくさんおられるのではないでしょうか?
そんな人々にこよなく愛されるチーズという食べ物もまた、ヨーロッパではとても古い時代から慣れ親しまれてきたものでした。
そもそもチーズとは、いったい何でしょうか?
原料は動物の「乳」で、栄養が豊富。そして一般には、発酵食品だから体にも良いのよ、なんて言われていますよね。
けれど、チーズには実にさまざまな種類があります。
まずはどんなチーズがあったか、ざっと思い出してみましょう。
●フレッシュチーズ
例)カッテージ、リコッタ、マスカルポーネ、クリームチーズ、モッツァレラなど
比較的やわらかく、フレッシュでミルクの風味が強いのが特徴。ただし傷みやすいので保存にはあまり向かない。
●白かびチーズ
例)カマンベール、ブリー、サンタンドレなど
トロリとクリーミーな舌ざわりとマイルドな口当たりが特徴。付着した白カビが内部まで浸透し、熟成が進む。
●青かび(ブルー)チーズ
例)ゴルゴンゾーラ、ロックフォール、スティルトンなど
一般に塩味が強めで風味が強く、ピリッとした独特の刺激があるものが多い。製造過程で青カビを加えて熟成させる。
●ウォッシュチーズ
例)エポワス、モン・ドール、ピエダングロワなど
熟成過程において酒や塩水などで何度も表面を洗うため、こう呼ばれる。芳醇で濃厚な風味のものが多い。
●ヤギ乳(シェーヴル)チーズ
例)サント=モール・ド・トゥーレーヌ、クロタン・ド・シャヴィニョル、ヴァランセなど
ヤギの乳から作られるチーズの総称。クセのある個性的な風味のものが多い。ヤギの出産シーズンである春から夏にかけて旬を迎えるが、作り立てから完熟するまでその時々のおいしさが楽しめる。
●非加熱圧搾(セミハード)チーズ
例)ゴーダ、チェダー、ラクレット、カンタルなど
チーズ作りの工程で、圧搾(プレス)して水分を40~50%程度まで抜いたチーズ。生地をカットして攪拌する際、温度を40℃以下に保って製造する。保存性が高く、クセがなく食べやすいものが多い。熟成期間は短いもので製造後3~6ヵ月、長いもので約1年。
●加熱圧搾(ハード)チーズ
例)パルミジャーノ・レッジャーノ、コンテ、グリュイエール、エメンタール、ペコリーノ・ロマーノなど
チーズ作りの工程で、圧搾(プレス)してさらに(40%以下まで)水分を抜いたチーズ。生地をカットして攪拌する際、温度を40℃以上にまで上げて製造する。保存性が極めて高く、熟成期間もより長く取ってじっくりと寝かせるため、深いコクと旨みがある。
・・・いかがでしょうか? 「あ、これ知ってる!」というチーズの名前、もちろんいくつか見つかりましたよね。
こうして見ていくと、一口にチーズとは言っても、味も見た目も質感も、実にさまざま。
それに原料や作り方も少しずつ違っていて、その多様さにはすっかり目を奪われてしまいます。
こんなにたくさんあるチーズ。
中でも私たち日本人にはやはり、カマンベールやゴーダ、パルミジャーノ・レッジャーノなど、牛乳から作られているチーズが一番なじみがあるのではないでしょうか。
しかし実は、ヒツジやヤギの乳なども非常によく使われる原料です。
というより、昔のヨーロッパではむしろ、このヒツジやヤギの乳から作られるチーズの方が主流でした。
なぜかというと、ヒツジやヤギというのは家畜の中でも特に飼育がしやすく、どんな厳しい気候にも適応するばかりか、わずかに生い茂った草さえあれば生きていけるのでエサへの配慮が格段に少なくて済んだからです。
対してウシは、家畜として飼い慣らしたくても結構大きくて獰猛ですし、体が大きい分、良い乳を出させるためにはエサも大量に必要とします。
ですから、ウシは長らく畑仕事などの力仕事がその主な役割でした。そう、農耕具(犂)や荷車を引かせるのに使われていたんですね。
↑ 地中海沿岸では特に重宝されたヤギ。雑食で棘のある植物まで食べてしまうため、ヒツジ以上に飼育に手間がかからなかった。
さて、ではとりあえず何らかの「乳」は確保できたとして、それをあの「チーズ」という塊に加工するには、いったいどんな手順を踏めばよいのでしょうか。
人間が最初にどうやってチーズを作ったのか?という点については、さまざまな説があります。
中でも、最も有名、且つ「いかにもありそう!」と思えるのが、「たまたま動物の胃袋に乳を入れておいたら、いつのまにか塊ができていた」という話――。
つまり昔は乳を保存したくても手ごろな容器がなく、持ち運ぶ時は解体したウシやヒツジの胃袋に入れていたわけなのですが、なんとそこに!偶然にも乳を固まらせる成分が含まれていた、というわけなのです。
これが、現在もチーズ作りに欠かすことのできない、レンネット(凝乳酵素)と呼ばれる成分です。
↑子ヒツジのレンネット。レンネットは、ウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物(=4つの胃袋を持つのが特徴。食べた物を第1、第2の胃袋で消化しつつ、一旦口まで戻し、再び咀嚼しながら消化・吸収するという消化システムを持つ)の第4胃袋に含まれている。
なにしろ液体である乳は、そのままでは運ぶのも大変ですし、扱いもしにくい。
何より、傷みやすくて日保ちがしません。
たんぱく質やカルシウムが豊富で栄養価が高いのはうれしいのですが、保存技術の未熟な昔の時代には、いくら乳がたくさんとれてもとても使い切れるものではありませんでした。
ところがこのレンネットの発見によって、人々は「扱いにくい乳から水分だけを抜く」という目からウロコな方法を手に入れたのです。
↑ 中世ヨーロッパの食と健康にまつわるハンドブック『健康全書』より、チーズ作りの様子を描いた挿し絵。
チーズ作りの工程というのは、おおまかに、温めた乳にレンネット(またはレモン汁などの酸)を加え、たんぱく質が固まってきたところでそれを塊として取り出します。
この塊のことをカード(凝乳)と言い、出てきた水分のことをホエイ(乳清)と言うのですね。
↑ 白く固まり始めているのがカード(凝乳)。黄色っぽい液体がホエイ(乳清)。これをこして水気を切ると、塊がチーズとなる。
そして次に、そのカードをチーズ専用の型に入れて水分を切っていくわけなのですが、この時に「型(ラテン語ではforma)」を使うから、フラ ンス語ではチーズのことをフロマージュ(fromage)、イタリア語でもフォルマッジョ(formaggio)と言うのです。
↑ 古代に使われていたチーズの型。底に穴が開いており、水切りと成形が同時にできるようになっているのがわかる。
さて、ここまでの工程は大体どのチーズでもほぼ同じですが、ここからが少しずつ違ってきます。
あまり手を加えず、ふんわりなめらかな質感とミルクの風合いをいかしたり。(フレッシュチーズ)
白カビや青カビの力を借りて熟成させ、独特の風味、舌ざわりを生み出したり。(白カビチーズ、青カビチーズ)
ワインやブランデー、ビールなど、その土地土地のお酒、あるいは塩水などでシンプルに洗いつつ、外皮に付着した菌で熟成を促したり。(ウォッシュチーズ)
また水分の抜き加減を調節して、長期保存に適する形に仕上げながら、同時に熟成によるコクと旨みを引き出したり――。(セミハード、ハードチーズ)
そうやってチーズは、その土地ならではの気候やそこで生まれた菌に育まれつつ、そこでしか作られえない独特の舌ざわりと風味を持つ食品へと生まれ変わるのです。
こうしたチーズには、実にさまざまな利点がありました。
栄養豊富で保存性に優れ、しかもチーズのたんぱく質は乳である時よりもはるかに消化吸収が良いのです (※ただし乳の状態により近いフレッシュチーズは除く)。
ですからチーズは、すでに古代ローマ帝国の時代から軍隊の携帯食として常備され、それは近代に至るまで変わることなく続きました。
↑ 16世紀後半イタリアの画家、ヴィンチェンツィオ・カンピ作『リコッタを食べる人々』。
また、乳やレンネットといった原料自体が手に入りやすかった農民にとっても、チーズは重要な栄養補給源でした。
混ぜ物だらけのかたいパンや、野菜の切れ端が少し入っただけのスープ――。
そんな貧しい食生活の中でも、そこにチーズをかけるだけで栄養価が格段に違い、またおいしく食べることができたのです。
チーズが栄養豊富であることはすでに古くから知られており、救貧院などでは妊婦や病中病後の患者にチーズを与えるよう、わざわざ取り決められている場合も多くありました。
しかし逆に、そんな庶民のたのもしい味方でもあったチーズだからこそ、ヨーロッパでは長い間、チーズには「貧しい人々の食べ物」というイメージがつきまとってしまうことになりました。
ところが、中世末期以降、そこに徐々に変化が生じてきます。
その大きなきっかけの一つとなったのが、例のキリスト教です。
以前、このコラムで「オリーブオイルとバター」についてお話させて頂いた時にも触れましたが(→クリックで飛べます)、キリスト教には一年のうちにある一定期間、一切の動物性食品をとってはならない日があります。
たとえば中世でいうと、それは年間140~160日にものぼったというのですが、その間、肉も魚も卵もチーズも一切口にせず、野菜や穀物だけで乗り切るというのはやはりとても大変なことでした。
そこで時代が下ると共に、魚はOK、卵もOK、そしてチーズもOK!という風に、少しずつ取り決めが緩やかになっていったのですが、そこでチーズはとてつもなく大きな役割を果たすことになったのです。
そう、「肉がダメなら、チーズを食べればいいじゃない!」というわけですね。(ちなみに当時は牛乳をそのまま飲むという習慣はほとんどありませんでした。)
同時にこの時期、それまでのヒツジやヤギの乳を主原料としたチーズと並び、ついに牛乳から作られたチーズが台頭し始めます。
その最たるものこそが、「チーズの王様」、パルミジャーノ・レッジャーノでした。
そこで次回は、パルミジャーノ・レッジャーノというチーズについて詳しくお話をしてみたいと思います。
お楽しみに!
※今回の記事は、こちらのNadia内特設ページより画像を数点拝借しています。ありがとうございました。
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今回は、おうちで手軽にチーズ作り気分を味わえるレシピをいくつかご紹介!
(以下、料理名にレシピをリンクしてありますので、よろしければ大きな写真と共にご覧下さい。)
◆ドイツの定番ディップ クロイタークヴァルク Kraeuterquark
火を使わずに、固形成分(カード)と水分(ホエイ)の分離の様子や、それぞれの味・食感を楽しめる水切りヨーグルト。ハーブ入りのこのさわやかなディップは本来クヴァルクという乳製品で作りますが、日本でなら水切りヨーグルトを使うと似た感じに仕上がります。じゃがいもによく合うほか、パンに塗ったり、サラダなどに加えても。
牛乳にレモン汁を加えて火にかけると、カードが固まってゆく様子を間近で見ることができます。それをこして水気を切ったら、お手軽フレッシュチーズの完成。リコッタチーズとカッテージチーズは本来違うものですが、家庭で食べたり料理などに使う場合には、どちらもこのレシピで大丈夫です。 (※なお、両者の違いについては、こちらの記事(→クリックで飛べます)をご参照ください。)
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