今月はハロウィーンとヨーロッパの関わりについて見ていきながら、ヨーロッパの人々にとっての秋の意味、そしてハロウィーンにまつわる食べ物やお料理のエピソードなどをご紹介させていただいています。
まず今年のハロウィーンがいつなのか、みなさんはもうご存知ですか?
そう、毎年10月31日なんです。
でもこれ、日本人にとってはなんともビミョーな時期だと思います。
何しろこの時期、日本はまさに行楽シーズンまっただなか。
さわやかに晴れ渡る空の下、秋の大型連休にレジャーを楽しんだり、運動会などの学校行事に参加したり。暑すぎも寒すぎもしない天気の良い日にお出かけするのは、本当に気持ち良くて楽しいものですよね。
その一方で、何か特定の日を祝うような大きな行事はもうクリスマスまでなく、いわばイベント上の空白期間のようなものがある季節でもあります。
そんな時期にさっそうと現れたのが、このハロウィーンというイベント。
でも、もちろん何の根拠もなく10月末日と決まっているわけではなくて、この日取りは古いヨーロッパの暦(カレンダー)と深く関係しているのです。
ヨーロッパでも、秋はまさに収穫の季節。
たとえば身近な所ですぐに思い浮かぶのは、毎年11月の第3木曜日に解禁されるワインの新物、ボージョレー・ヌーヴォー。今では日本のスーパーなどでも普通に売られているのを見かけるようになりました。
また、山々にはこの時期にしか食べられないきのこがニョキニョキと生えてきますし、秋ならではのおいしい食べ物、ジビエ料理(狩猟でとった野生の鳥獣を使った料理)なども楽しめます。
↑ きのこの王様、ポルチーニ(左)と、秋のヨーロッパの代表的なきのこのひとつ、アンズタケ(右)。
木々が黄金色に輝く秋の風景は作物の豊穣を思わせ、農家では冬に備えて家畜を屠(ほふ)り、保存食を蓄える季節でもあります。
しかし10月も末になればそれも一通り終わってしまい、あとはひたすら冬がやって来るのを待つばかり。
空はどんよりと曇り、雨や霧の日も多くて、太陽が沈む時間も日に日に早くなってきます。
日照時間の短さによって引き起こされる「冬うつ」という言葉が持ち出され、スーパーの店員さんが妙に無愛想になったり、留学生の気分が沈みがちになるのもまさにこの時期から。
そう、気候が比較的温暖な日本とは違って、ヨーロッパの10月はすでに冬の入り口なのです。
11月も末になればいよいよクリスマスムードが高まってくるのですが、それまでは一年の中でも最も "つまらない" 季節を過ごすことになります。
そんなヨーロッパの晩秋は、夏から冬への移行の季節。
それまで緑に萌えていた木々はいつしか葉を落とし、人も動物もみな静かに沈黙する――。
以前、こちらのコラムでイースター(復活祭)のお話をさせていただいた時にも触れたことですが、かつてのヨーロッパでは、夏は「生命」を、冬は「死」を象徴するものでした。(→クリックで記事に飛べます)
イースターがもともと春を迎えるお祭りであったように、この10月から11月にかけての季節は、ヨーロッパが夏に別れを告げ、冬を迎えるための期間――。
そのため、キリスト教が広がるずっと以前から、ヨーロッパではこの季節にひとつの大きな節目を意味するさまざまな行事が行われてきました。
たとえば最初は、ヨーロッパの先住民である、いわゆる「ケルト」と呼ばれる人々が行っていたサウィン(サムハイン)祭。
この日には年に一度、あの世とこの世の境目にある扉が開かれるとされ、たくさんのごちそうや供物、いけにえが捧げられました。
妖精や悪霊といった超自然的な不思議なものがあたりをうろつく中、死者の霊を慰めるため、あるいは悪いものから自分の身を守るために、人々は火をたいてうかれ騒いだといいます。
太陽の季節から、暗闇の季節へ。生命の季節から、死の季節へ――。
キリスト教が定めた暦(カレンダー)が普及する以前のヨーロッパでは、収穫を祝い、厳しい冬へと向かうこの季節こそが一年の始まりだったのでした。
ですからこの時期には、お金の貸し借りが清算されたりもしていたんです。
そして現在でも、ヨーロッパではこの時期、各国でさまざまなイベントが行われています。
たとえばイギリスの場合。11月5日は、英国で最も愛される祝祭のひとつ、ガイ・フォークス・ナイト。
1606年に国王ジェームズ1世暗殺を企てた一味の一人として処刑されたガイ・フォークスという人物にちなみ、その人物に見立てた人形を燃やし、花火を打ち上げるイベントです。
他の国ですと、11月11日は聖マルティヌスの日。
フランスやドイツを中心に、ヨーロッパで広く祝われるこの祝祭には収穫祭の意味合いも込められており、その年にできたワインを最初に味わう日とされているほか、聖マルティヌスという聖人にちなんだガチョウの料理が好んで食べられます。
古くから「冬の始まり」として意識されていた記念日のひとつで、ランタンを灯しての行列もよく見られる光景となっています。
↑ 万聖節の日に墓参りに行く家族を描いたエミール・フリアン作(1863-1932)の絵画(左)。花とろうそくの供えられた墓地の様子(右)。
しかし、中でもハロウィーンそのものと最も関わりが深いのが、11月1日の万聖節(諸聖人の日)。
英語では簡単に、All Saints。または、All Hallowsなどとも呼ばれます。
そう、何を隠そう、あの「ハロウィーン(Halloween)」という名称こそ、この万聖節の前夜(All Hallows' eve)という意味からきていると言われているのです。
この日は、キリスト教の聖人や殉教者を記念する日。
翌11月2日の万霊節(死者の日)と合わせて、ヨーロッパでは古くから、亡くなった家族や親族に想いを寄せ、キクの花をたずさえてみんなでお墓参りに行くことが多かったのです。
これらひとつひとつの行事、それぞれの内容自体はさまざまですが、これら一連のイベントに共通するのは「夏=生命」の季節に別れを告げ、「冬=死」を想うということ――。
ヨーロッパの人々にとっては、いわば日本のお盆のように、一年の中で死や死者というものが最も身近になるのがまさにこの10月から11月の時期ということなのですね。
死者を迎え、慰めるための、数々のごちそうや弔(とむら)いの火。
収穫を祝うため、あるいは悪霊を追い払うためのたき火や、大声をあげてのどんちゃん騒ぎ――。
静かに過ごすも、うかれ騒いで過ごすも、イベントや国・地域、人によってさまざま。
けれどこの時期の諸々の行事には、どれもそんな似たようなモチーフがたくさん散りばめられています。
そしてハロウィーンもまた、そんな要素をすべて取り込みながら、こうしたさまざまな行事と時に入れ替わったり混ざり合ったりしつつ、ヨーロッパの中で静かに息づいてきました。
だからこそハロウィーンには、面白さ楽しさでいっぱいのお祭りムードと共に、どこかシュールでゾッとするような、コワ可愛い雰囲気があるんですね!
* * *
次回はいよいよ、ハロウィーン当日のヨーロッパの様子をリポートしながら、食べ物とお料理にまつわるエピソードを中心にお伝えしていきたいと思います。
お楽しみに!
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