あるところに、ベアートとマルティンという兄弟がおりました。
二人は小さな農村の湖のほとりで、お母さんから受け継いだ土地を耕しながら、果物などを育てて暮らしていました。
ある時、二人はふと思い立って菜園の隅にカボチャを植えてみました。見事に育ったので、それを自分たちの農場の直売所に置いてみると、なんとたちまち数百キロが飛ぶように売れてしまいました。
二人は思いました。
「そう言えば、少し前から若い人がやって来ては "ハロウィーンのカボチャはないか?"って訊いていったっけ」――。
そこで一家はさっそくカボチャの作付け面積を増やし、いろいろな種類・大きさのカボチャを並べた「カボチャ展」を開催することにしました。
すると、どうでしょう! 地元メディアの宣伝の甲斐もあって、小さな田舎町に、わざわざ遠くから8000人もの人が足を運んでくれたのです。
翌年には、さらにカボチャの種類と量を増やして開催してみたところ、今度は1万5000人が会場を訪れてくれました。
しかもテレビ局が「世界最大のカボチャ展」として取り上げてくれたので、年を重ねるごとにどんどん参加者が増えていきます。
次の年の来場者数は、なんと320万人。そろえたカボチャは、800トン、250品種。
たくさんのカボチャを積み上げてピラミッドを作ってみると、それはそれは大きな評判を呼んで、世界記録としてあのギネスブックにも掲載されることになりました。
そこで二人は会社を設立し、アメリカからさまざまなハロウィーンのアイディアを集めながら、たくさんの使用人を雇ってもっと多くのカボチャを育てられるようにしました。
さらに広告代理店やパーティー企画のプロなどとも提携して、会場の規模をどんどん立派なものにしていきました。
さまざまな種類のカボチャや農産物が買える直売所。
カボチャ料理のフルコースが食べられるレストラン。
カボチャの加工品が買えるショップ。
農家の生活をプチ体験できる施設。
子供たちが農場の動物と触れ合える広場。
手搾りのりんごジュースやカボチャスープが食べられる屋台――。
今や農場は一大テーマパークのようになり、会場のあちらこちらに、カボチャでできたさまざまな巨大アート作品が飾られるようになりました。
こうなっては、もちろんマスコミも放っておきません。今や兄弟の主催するカボチャ展は世界中のメディアからの注目を集め、それこそ中国やペルーといった国々に至るまで、全世界に紹介されるようになったのです――。
* * *
こんにちは! 庭乃桃です。
今日はいよいよハロウィーン。みなさん、もう心の準備はできていますか??
何しろ今夜は、一年に一度の特別な夜――。
このコラムを読んでくださっていた方は、どんな意味だかきっともうおわかりですよね!
( わからないよ!という方は、ぜひ以下の記事をどうぞ。
●第12回: オレンジとゴールドの秋。ハロウィーンという不思議なイベント。
●第13回: ハロウィーンはなぜ10/31なのか?という謎。
●第14回: 不思議に満ちるハロウィーン・ナイト! ハロウィーンの日にすること、食べ物のおはなし。 )
さて、仮装をして何かのイベントに参加される方も。
お友達と一緒にワイワイ、楽しいパーティーを企画されている方も。
そして特に何もしないし、予定はない。だってあんまり興味ないし!という方も――。
よかったら、ほんの少しの時間、お付き合いください。
今日は、「なぜハロウィーンがこんなにも広まったのか?」という最大の謎について、ヨーロッパの場合を例に少しご紹介してみたいと思います。
もちろん、料理のお話もちょこっと出てきますので、お料理好きなみなさんもぜひご覧下さいね!
* * *
さて、今回はいきなり冒頭から、なんとも華麗な兄弟のサクセスストーリーをご覧いただきました。
・・・もうおわかりですよね。そう、こちらのお話は、すべて実話なんです。
兄弟の名前は、ユッカーさんご一家。
スイスはチューリヒの近郊、ゼーグレーベン(Seegraeben)という場所にある、ユッカー・ファーム(Jucker Farm)がこのお話の舞台です。
兄弟が初めてカボチャを作り始めたのは1996年だそうですから、今からつい20年ほども前のことでした。
実はこの頃、ヨーロッパはちょうど、ハロウィーンをめぐってとても大きな転機を迎えていたんです。
1982年公開の、スティーブン・スピルバーグ監督のSF映画、『E.T.』。
1993年公開の、ティム・バートン監督作、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。(※ →ジャック・オー・ランタンが描かれたポスター)
そして、1997年に第1作目の初版が出された、あの『ハリー・ポッター』シリーズ――。
映画や小説、ざっと挙げるだけでも、全世界的にヒットした娯楽作品の中にアメリカ的なハロウィーンの場面や要素がたくさん取り上げられていたのです。
そして、そんな「ハロウィーン」というイベントをヨーロッパに決定的に印象付けたのが、1997年に打たれたあるひとつの広告でした。
この年の秋、フランス・テレコム社は、「オーラ(Ola)」という名前の携帯電話・新機種を発表。その名も「オーラウィン(Olaween)」と銘打って大々的に宣伝し、ハロウィーン当日に商品を発売したのです。
テレビでもオレンジのカボチャとハロウィーンの雰囲気いっぱいのCMが放送され(→クリックで飛んだ先から実際にご覧になれます)、これをきっかけに、ヨーロッパでアメリカ的な新しい形のハロウィーン文化が広く知られることになりました。
(今でもフランスでは、「最初にハロウィーンを知ったのはいつ?」というアンケートに対してこの広告のことを挙げる人が多いそうです。)
そしてこの時期、これと同じようなことが、ヨーロッパの他の国々でも起こり始めていました。
たとえば北欧スウェーデンでは、ちょうど同じ年、あのマクドナルドが魔物やトロールをあしらった「ハッピー・ミール(Happy Meal)」(※日本で言うところの、子供向けのおもちゃなどが付いた「ハッピーセット」)を売り出しています。
実は、それまでヨーロッパで知られていたハロウィーンというのは、せいぜいアメリカンスクールをはじめとするアメリカ文化になじんだ人々を中心に行われるものにすぎませんでした。
そういうイベントがあるのは知っているけれど、特に自分が参加したりすることはない――。つまり、そういう感じです。
けれどこの頃になると、映画や小説の影響、メディアの報道なども相まって、徐々にアメリカ的なハロウィーン・イベントが盛んに宣伝されるようになります。
街にはハロウィーン関係のグッズやおもちゃがあふれ、仮装用のコスチュームやお菓子、そしてパーティーのためのカボチャ料理を扱ったレシピ本などが次々と店頭に並ぶようになったのです。
そしてもちろん、オレンジ色をしたあのカボチャも――。
ユッカー家の兄弟が成功を手にしたことからもわかるように、ヨーロッパでのハロウィーン用カボチャの需要は年々高まっていきました。
たとえばフランスでの生産量だけを見ても、1990年の14,600トンから、1997年の23,900トンへと、この時期に急激な増加をたどっていたことがわかります。
カボチャは、農家では伝統的に菜園の日陰の場所に適した野菜とされていました。
夏に収穫されて豚の飼料になるだけでなく、たい肥をなじませ、大きな葉が保水に役立ちますし、枯れればそれ自体が有機肥料となるので重宝されたのです。
ですから秋になると、各家が形良く育ったカボチャを菜園の壁の上に並べてデコレーションしたり、時にはジャック・オー・ランタンよろしく顔のようにくり抜いて、中にロウソクを灯したりすることもありました。
けれど、そもそもヨーロッパのカボチャというのは日本のもののようにホクホクしておらず、かなり水っぽいのであまり人気のある野菜ではありませんでした。
ただパスタを好むイタリアでは比較的人気があり、またはスープなどにして食べることはよくありましたが、それでもカボチャは「家畜のえさ」、「貧しい農民の食べ物」というイメージの方が強くて、それほど心浮き立つ野菜とは言えませんでした。
ところがアメリカ的な文化の流入を受けて、そんなヨーロッパでも、今や「ハロウィーン用のカボチャ」という特別枠で盛んに栽培がされるようになったのです。
そんな動きは、デコレーション用のカボチャだけでなく、食用カボチャの生産増加にも繋がっていきました。
そして、ハロウィーン・カラーのオレンジ色――。これはアメリカのカボチャからきたイメージなのでもともとヨーロッパのハロウィーンにはないものでしたが、明るく見た目が良いことから料理やテーブルコーディネートの分野にもすぐに進出してきました。
しかもカボチャは、前菜からスープ、メイン料理、デザートに至るまで幅広く活用できる便利な野菜。この時期には、ハロウィーン・メニューをテーマにしたキッチンウェアやレシピ本だけだけでも相当の売り上げが見込まれたのです。
そもそも企業側からすれば、秋からクリスマスまでのこの時期は商業的な端境期。ですから、こうした人の心をつかむ新しいイベントが流行するのはむしろ大いに歓迎すべきことでした。
さて、アメリカ的な新しいハロウィーンは、こんな風にして徐々にヨーロッパの人々の間に知られるようになっていきました。
・・・最初はよくわからなかったけれど、テレビや雑誌で取り上げられているし、街でも面白いグッズをたくさん見かけるようになった――。
そんなところは、どこか私たち日本とも事情が似ているような気がしませんか?
とはいえ、いくらマスコミが盛り立てたとしても、ただそれだけでハロウィーンが流行るわけでもありません。
そこにはやはり、何か自分も参加してみたくなるようなハロウィーンならではの魅力というのがあったのです。
それについては、「やはりハロウィーンの最大の魅力は、とにかく "楽しい" ということだ!」と言い切る人たちがいます。
だってハロウィーンは、日常を忘れ、普段とは違う自分になれる最高の機会。
さまざまなコスチュームに身を包んでいれば、今日初めて会った人とだって思わず話が弾んでしまうし、おいしいお菓子や料理を食べながら、友達とだって今まで以上に仲良くなれる―。
実際、ヨーロッパで祝われていた時から、ハロウィーンを一番待ちわびていたのは地方の農村から出てきた労働者たちだったと言われています。
彼らはまだ街での生活に慣れておらず、人付き合いもあまりできていない――。しかし、冬が長く、寒さが厳しい昔の北ヨーロッパなどでは、冬に入る前に人間関係が築けていないと何かあった時に誰にも助けてもらえず、下手をすると命までも落としかねません。
ヨーロッパからの移民が新天地・アメリカに渡った時も、このハロウィーンという文化が人間同士の距離を縮めてくれるものであることを人々はよく知っていました。
だからこそ、見知らぬ土地で、ハロウィーン文化はあれだけ栄えたのですね。
今でも、アメリカでハロウィーンが地域の連帯を強める上で重要な機能を果たしていることはよく知られています。それは何より、ハロウィーンの「楽しさ」が結んでくれる人との縁、きずななのかもしれません。
「死」の匂いと「楽しさ」が混ざり合う、不思議なイベント、ハロウィーン――。
ヨーロッパに源流を持ち、アメリカで新たな形へと生まれ変わったこの行事は、あまりにも複雑な歴史を持つがゆえにさまざまな要素がからみ合って現在に至ります。
そして今もなお、その土地その土地に合ったやり方で進化をし続けています。
けれどその不思議さゆえに、私たちに「ハロウィーンって何だろう?」という想いを抱かせてくれるのもまたハロウィーンの魅力。
なぜってそれを考えることで、こんな風に他の国の文化や、自分たちのあり方を見つめ直す最高のきっかけにもなるのですから――。
* * *
さて、みなさんは今日、いったいどんなハロウィーンをお過ごしになるのでしょうか?
せっかくですから、私たち日本人は私たちらしく、みんなが楽しくて気持ち良く過ごせる素敵なハロウィーンにしたいものですね!
今月も、長い文章を最後まで読んでくださって本当にありがとうございました。
それでは、みなさん、Happy Halloween!!
***************************
今回は最後に、今からでも間に合う!簡単カボチャのレシピをご紹介。
どれもハロウィーンが終わっても使える秋冬にぴったりのメニューですので、よかったらぜひ作ってみて下さいね!
(以下、料理名にレシピをリンクしてありますので、よろしければ大きな写真と共にご覧下さい。)
パイ生地要らずで作れるひと口サイズのミニ・キッシュ。小さく切った食パンと材料を混ぜて焼くだけなので、簡単&お手軽です。かぼちゃの甘みとチーズのコクで、皆に喜ばれる一品に。オールスパイスがすぐにない場合は、いっそ入れなくても大丈夫!
ホクホク甘いかぼちゃと香りの良い蜜柑がたまらない、秋冬にぴったりの簡単スイーツ。これも食パンがあれば作れてしまう、さくふわなお手軽クランブルです。ジンジャーの香りがとても良く合います。
かぼちゃを練り込んだもちもちのクレープ生地を焼き、マッシュしたかぼちゃを包むだけ。シナモン香る熱々のクレープに、冷たいアイスをのせます。簡単だけれどとびきり美味しい、ハロウィーンの季節にぴったりのスイーツ。
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